第4章 武士の休息
食事が終わると揃は駅の周囲の見回りへ向かい、峙は武具の調整のために専門の技巧のところへ出かけ、恵もそれについていった。
残った来栖はをもて余していた。
食後に自ら煎茶を入れてくれたのだがその気遣いもあまり慣れていない。どうしたものかと茶がすすむ。
その緊張感は彼女にも伝わっていたのだろう。いくつか今日の行動の提案を受けた。
美しい景色を眺めて心を癒す、温泉で体を癒す、町へ出向き買い物を楽しむ。
だがどれもあまりピンとこなかった。
「じゃあ全部しましょうか。」
「全部、だと?」
「えぇ。私も今日を楽しみたいのです。来栖様との思い出を作りたいのです。お手伝いと思ってお付き合い願えませんか?」
彼女がどうしてそこまで自分に拘るのかは分からなかった。
昨日出会ったばかりでまだ互いもよく知らない。
(もしや、これは一目惚れか!!)
ほんの一目見ただけで惚れるなど有り得るのかと思っていたがまさか自分がその相手かもしれないと知ったとたんに意識が始まってしまった。
元々所作は美しいだが指先の動きにまで心動かされ動悸が起き始める。
来栖はこれがなんなのかは知らなかった。
(なんだこれは…)
何も言わずに胸を抑えだす来栖の様子に具合を悪くしたのではとは心配して背中を撫でた。
「大丈夫ですか?」
「…!あぁ、大事はない。」
手が触れた瞬間は体に電流が流れたような感覚が走った。思わずよけてしまい余計に不思議がられた。
「お部屋を用意しますから、お休みになられたらどうですか?」
「部屋!?」
なぜか部屋と聞いて布団と峙の発言がなんども脳裏をよぎる。
目が回りそうだ。
どうやら顔も赤かったらしく、熱があるのではと今度は額に手を当てられそうになったので逃げるようにそれを避けた。
「いや、心配いらない!」
「では甲鉄城までお送りしましょう。何かあってからでは我々としても菖蒲様にあわせる顔がありません。」
一先ずここを離れればどうにかなるかもしれない。
が視界に入るだけでどうにかなってしまいそうだ。
「一人で帰れる!見送りはいらん!」
「そうですか…」
来栖は半ば強引に振り切って屋敷を出た。