第4章 武士の休息
しかしこの食卓、片や女神の装いで母性を放っているが目と鼻の先では兄弟が食べ物を取り合い、なんとも見苦しい。
これが一般的な家庭なのだろうか。
しかし元は宮家。一般ではないだろう。
峙が自慢の速さで恵の皿から焼き魚を奪い取る。
「あ、兄様!それはあとで食べようと思ってとっていたのに!!」
「わりぃわりぃ。残すのかと思った。」
口いっぱいに頬張りもごもごとさせながら峙が平謝りした。
恵は涙目になりながらに助けを求む視線を向けると、は自分の分でとっておいた魚を恵にあげた。
「ほら、私のをあげますから。」
「でも姉様のが…」
「よいのですよ、恵はこれから大きくなるのですから。どんどん食べなさい。」
揃はちょっと食べ過ぎですけどねとは言った。
戦場同然の食べっぷりに来栖もまだ呆気にとられている。
これだけ豪勢に用意されてもゆっくり食べる気になれないのがなんとも残念である。
「いつもこうなのか?」
「ええ、毎日毎食、この惨事です。」
惨事とは言われれば大惨事だが、その賑やかさは幸せを感じられるものだった。
本人も食欲旺盛な弟たちを愛しげに眺めていた。
またそれも束の間。揃の箸がの皿に伸びるとすかさずその手を叩いた。
「これ!お行儀悪い!」
「お、やっぱり来栖さんがいるといつもみたいに怒らないな。」
「いつもはそんなに怒っているのか?」
この女神が怒るのは想像できないが。
「そりゃあもう、山姥の形相で…」
「余計なことを言うでない!」
「カバネではなく山姥か…」
「来栖様!真に受けないでくださいな!」
その後、山姥の形相とやらは食後に甘味の取り合いが起きたことでそれに近しいものを見ることはできた。
喧しくも賑やかな姉弟たちを侍女たちも笑って見守っていた。
まるでここだけはカバネなんて現れなかった世界のようにも見える。
来栖も声を出して笑ったのは一体いつぶりだろうか。
揃にすらその仏頂面でも笑うのかとからかわれる始末。
腹も膨れ、笑って心も穏やかになる。
この安堵、平和を誰もが感じられるような顕金駅にすることはきっと菖蒲も願っているだろうが、来栖も改めてそれを意識できた時間になった。