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明星の風【甲鉄城のカバネリ】

第4章 武士の休息


来栖が断りを入れる隙もなかった。
たじろいだのかもしれない。
黙って出ていくのも失礼なので仕方なく後をついていくしかなかった。

姉弟たちの入った部屋には大きな食卓があり、御椀が五つ用意されていた。初めから来栖も頭数に入っていたとみえる。
だがそれよりも元宮家というからに雅な膳を想像していたが一般の庶民や侍と変わりない生活ぶりであることに驚いた。


「意外と普通なんだな…」


「ごめんなさいね、あまり豪華ではないんですが…」

「あ、いや、そういうつもりでは…」


むしろこの方が気も張らずにすむと思ったのは確かだ。
それにどうやら男ばかり三人の兄弟がいると食事の取り合いもよくあるらしく、御膳で個々に出すと喧嘩が絶えないので食卓を囲み大皿で食べるようになったとか。
つまりは早い者勝ちだ。


「今朝から侍女にお願いして今日はたくさん用意していただきましたからね。」


が座布団に腰かけると恵は我先に姉の隣を陣取ったが今日はお客様の席ですと来栖に譲られたので言われた通りに隣に腰を下ろした。

その向かいには揃と峙が。
姉の隣ではないがやや向かい合う形で恵も座る。

すると間もなくして幾人かの侍女が大皿やおひつを持って現れた。

焼き物や煮物や様々な料理がそれぞれ大皿いっぱいに盛られ、量に圧倒される。
それに茶碗にはふっくらと炊き上がった白米が装われた。米を見るのは久しぶりだった。
粒が輝いている。来栖は茶碗を目の高さまで上げて感嘆の声を上げた。


「どうぞ、お好きなだけ召し上がってください。」


は屈託ない笑みを向けた。
しかし主君ですら米を食していない今、己ごときがこんなところで呑気にありついていていいものなのか。
だかそんな悩みもほんの数秒。
揃や峙の食べる勢いときたらまるで台風のごとし。
考えている間に全てなくなりそうだったので気にせず食べる事にした。


「…うまい!」


炊いた米はなかなか食べれるものじゃない。
粥は合っても炊いた米は。
その自然の甘さに感動する。


「良かった。さぁ、どんどん食べないとなくなりますよ?」

はただ隣で微笑んでいた。
その温かさを遠い昔に感じたことがある気がした。
母の記憶だろか。

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