第4章 武士の休息
「姉上言ってたぜ、あんたのこと。あんな素敵な人この世に二人といませんわ~って」
峙はの真似なのか声を高くし目を輝かせて言った。
「兄上、姉様に怒られますよ?」
言いながらも恵は笑っていた。来栖はそれが嘘か誠かはどうでもよかったがただただ羞恥で顔が焼ける思いをした。
それを見て峙も笑いだす。
「来栖さんだっけ?そんなんで大丈夫?姉上に食われないように気をつけなよ」
「く、食う…だと?」
「本当に食べるんじゃないですよ?カバネじゃなくてカバネリですからね。」
「そんなことは分かっている!だがしかし…」
食われるとはつまり女の方から誘われるということ。
女としての淑やかさに欠けるともとれるそれは普段から菖蒲を見ている来栖には信じられないことだった。
仮にも元宮家の者だというのに。
「やはり失礼する!」
「え、嘘!!」
「待ってください!」
踵を返しさっさと縁側の履き物に足をかけた時だった。
暖かい風が部屋の中を通り抜け、花の香りが微かに混ざっているのを感じる。
履き物に向いていた顔をあげると金色が風で靡いていた。
「あら、来栖様。お早かったのですね。」
が揃と共に帰ったところだった。
「姉様、お帰りなさい!」
恵は嬉々として姉の懐に飛び込んでいった。
それはまるで母と子のようでもあった。
は優しく恵の髪を撫でる。
「ただいま、恵。」
「姉様、体の具合はどうでしたか?」
「大丈夫ですよ。心配をかけてごめんなさい。」
それを聞いて昨晩の話を思い出した。彼女は持病があると。
顔色は悪くも見えない。それに先程の弟が言う食う食わないの話も過りだし脳裏はやや混乱の渦。
仕事以外となるとこうも思考は回らないのかと情けなくもなる。
取り敢えず気持ちを落ち着かせ、履き物にかけた足を一旦縁側に戻した。
「体調が優れないのなら帰るが…」
来栖のさも最もらしい理由に峙は笑いを堪えた。
本当はビビったくせにと腹の中では笑っていたのだが。
「いいえ、大丈夫ですよ。せっかくのお客様ですから。朝餉はお済みですか?」
「いや…」
「では皆でいただきましょう。」
「あー腹減ったなー」
恵を連れて部屋の奥へと入るとその後ろを大きな弟たちが続いた。