第4章 武士の休息
木漏れ日のトンネルが終わるとそこは開けていて、中央には大きな屋敷が佇んでいる。
屋根の高い平屋造りで庭には野花が綺麗整えられて咲いていた。塀がなく、部屋の襖は開放されていて奥まで見通せた。
玄関にあたる場所が一見見当たらず、来栖はどこから入ろうものかと、考えながらゆっくり近づいた。
すると気配に気づいたのか、女が慎重な面持ちで姿を表した。侍女だろうか。
女は縁側まできた。
「どちら様ですか?」
「…四方川家家臣、九智来栖だ。」
侍女が訝しげに来栖に目を向けていると背後から着流しの男が現れた。
細身ですらりとした姿はどこかとも似てる。
「甲鉄城のお侍さんでしょ。」
来栖はこの男が樓の上にいた吉備土じゃない方だということにはすぐ気がついた。
「峙様。もしや様のお客様ですか?」
「そうだよ。」
分かるなり侍女は膝を折って三つ指をついた。
「失礼いたしました。」
「姉上ならいませんせいのところだ。もうすぐ帰ると思うから上がって待っていなよ。」
藍染の着流しの袖に腕を隠し、峙は部屋の中へ来栖を招き入れようとした。
どうやら戸口は裏にあるらしく縁側から入るのがこの家では普通らしい。
一歩入って履き物の揃えたところで、を小さくしたような男児が家の奥から小走りでやってきた。
「姉様のお客様ですね。お待ちしてました。」
まだ年若いだろうがとても丁寧な物言いの男児は一番下の弟だと分かった。
の末の弟、恵は近くで見ると凛々しさがあるもののどちらかと言えば女のような麗しさを持っていた。
「お一人なんですね。」
「ん?」
「てっきりお姫様も一緒かと思っていました。」
それはまるで自分より菖蒲が来ることの方が楽しみにしていたのかと思う口ぶりだった。
まぁ年頃の男児なら仕方ないかとも思う。
だがそもそもは一体何の用事があって来栖を呼び出しているのか。
歳の近そうな峙にそれとなく聞いてみる。
「そりゃあ女が男を家に呼ぶなんて一つしかないだろう!」
「どういうことだ?」
「…あんた本気で言ってる?」
来栖は生まれながら四方川家の武士として生きてきた。
上侍に罵られながらも菖蒲に命尽くすため過ごしてきた。
その他になんと思われようと知ったことではない。