第3章 行き場のない姉弟
「私は人の血は飲みません。」
はさも当たり前のように言ったが無名も生駒もそれには驚いた。
「どうして!?」
「なんで飲まないで平気なんだ?」
「どうしたら皆から血を貰わずに生きられるの?」
二人とも日頃から甲鉄城の人々に支えられていた。
出来ることなら血など貰わずに生きていたい。
竹水筒から一口流すたびに思ったほどだ。
だがこれに関してはにも何故かは分からないという。ただ可能性として考えられることはあり。
「私には幼い頃より持病がありまして…」
本来なら病気にかかった際にそれを打ち消そうと人々には免疫というものが備わっている。
だが彼女の免疫は過剰な反応をみせ、自らをも攻撃してしまうのだという。
その体質がカバネウイルスを打ち消すのではないかと、あくまで仮説だが。
そのためは次第にカバネの力が弱まるのだという。
「人に戻るのか!?」
「いえ、残念ながら弱いカバネリになるだけで…」
そこまでいうと皆ある程度は気がついたようだった。
しばらく黙っていると無名が言った。
「ていうことは、私たちと逆でカバネの血を飲んでるんだね。」
は気まずそうに頷いてみせた。
カバネの血を飲むなどそれこそ妖しの類いのようだ。
そう思われても仕方ないだろう。現に菖蒲は驚きのあまり口元を抑えていた。
「カバネリとは口ばかり。私はほとんどカバネのようなものですね…」
「姉さん、止めろよ。カバネリとカバネは違うんだろう?」
気を落とす姉の背を揃は宥めるように撫でた。
あまり触れられたくない事実だった。
無名と生駒にもその気持ちはよく分かる。
「すみません、さん。言いたくないことまで言わせてしまいましたね…」
しかし元はと言えば聞いたのは来栖であって、それを主君が代わりに詫びるという合ってはならない事態。
菖蒲が謝ってようやくそれに気がついた。
「も、申し訳なかった……」
来栖も頭を下げたが、それは誰に向かって謝ってるのか自分でもはっきりしなかった。
だがは微笑んで場に漂う思い空気を払ってみせた。