第3章 行き場のない姉弟
「おいで」
美馬が催促するように手を差し出すと、傍らの研究者は何かを包みから取り出していた。
「カバネの力を手にいれ強くなりなさい。家族を守りたいのなら…」
は美馬の手をとると静かに引き寄せられた。
恐怖は不思議となかった。元よりこの身をもって皆を守れるならなんでも良いと思った。
(揃はきっと、怒るでしょうね…)
その姿は容易に想像できる。そんなことを考えている間に首筋をちくりと痛みが走った。
噛まれたとは違う痛みだ。そうなにか細い針で刺されたような。
そして冷たい液体が体内に染み渡る。
意識が混濁し始め次第に暗闇に落ちていった。
次に目を覚ました時は屋敷の自室だった。
侍女が心配気に見下ろしていた。
起き上がると身体は思ったより軽く、気分も悪くない。
屋敷には美馬が運んでくれたのだとか。
そして気がついたらまた克城へくるようにと仰せだったと。
さすがに怒りを露にしたのはやはり揃だった。
姉の意識が戻ったことを喜ぶより先に一体何をしたものかと荒々しく克城に乗り込もうとしたのだ。
はひたすらに揃をなだめ、共に美馬の元へいきカバネリとしての効果や副作用について事細かに説明を受けた。
「全く姉さんは勝手にカバネになるなんて。」
「私の体なのだから好きにしたっていいでしょう?」
それにカバネではなくカバネリですと念を押すように言った。
祭りの喧騒も静まり帰り支度をする人が増えた。
そんな中、灯籠を囲むようにして腰かけをよせて話し込む菖蒲、来栖、吉備土、生駒、無名、に揃。
静は話が始まる前に外したようだ。
「兄様だったんだね、さんをカバネリにしたのは」
「なんと、あの美馬殿に妹君がいたのですか?」
「ううん、私が兄様って呼んでただけ。」
「無名をカバネリにしたのも美馬の仕業だ。」
生駒はやや私怨を含ませた物言いで付け加えた。
無名としては自ら望んでなったとまだそこだけは譲れなかった。
「カバネリなら殿もやはり生き血を飲むのか?」
来栖の目付きはまるで化物をみるようでもあった。
見知らぬカバネリはカバネも同然であるのだろう。
いくら人のように振る舞ってもだ。