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明星の風【甲鉄城のカバネリ】

第3章 行き場のない姉弟



「女一人に…」

美馬が言いかけたところで、後ろにいた弟も前へと出た。
当時から身体の大きな揃は蒸気筒を手に姉より前に出でる。


「一人じゃない!俺もいるぞ!」

「揃!下がりなさい!」

「家族バラバラになるくらいなら、ここで散った方がマシだ!」




揃の力強い物言いに隠れていた弟二人も前に出た。


「そうだ、俺たちもいる!」

「姉様だけに怖い思いはさせません!」

恵は涙を流しながら震える手を握りしめながらの前に出た。
その小さな身体の健気な様を見て従者も皆立ち上がる。


美馬はその勢いに負けたのか、どういうわけか刀を下ろしたという。
そして。



「高宮は解放しました。克城の整備と物資の調達にお力添え願えますか?」



先ほどまで妖魔のような眼孔をした男はただの麗しい笑みを向けた。
はそのころころ変わる表情に戸惑いながら、頷くと美馬は静かに屋敷を去った。

姉弟は脱力しその場に座り込んだという。


生き残った高宮の民人は駅の修復をし、克城の清掃や整備を手伝い、旅の食料など物資を提供した。
もともとなけなしの物資ではあったが駅を救った美馬に対して惜しみもなく差し出したという。
そしてある日、は美馬に呼び出され克城へ来た。
美馬はただ静かに強くなりたいかと問う。
は震える手で薙刀を握った数日前を思い出した。まだその時の感覚は覚えている。
姉の意地で美馬の前に躍り出たものの直ぐ背には恐怖が張り付いていた感覚を。


「私は…強くなりたいです。」


「そうか…。」







美馬は克城の奥にを通した。
そこには白装束の痩せた男が怪しく笑いながら立っていた。
彼はカバネの研究者だと言った。
そこで初めて、人とカバネの狭間の存在、カバネリについて聞かされる。
俄に信じがたいことばかりではあったが、決定付けたのは美馬が見せた心臓だった。
自らもカバネリとなり、強さを身につけ、この狩方衆を率いてカバネを狩り、駅を解放するまでに至ったと。
光る心臓に、どこか温かさも感じられるのはまだ人の心が残っているからだろうか。
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