第3章 行き場のない姉弟
「姉さんの言うとおりだ。俺たちは高宮に逃れてきた時から宮の称を捨てて生きるのを選んだ。ここの民人が呼びたくて宮様なんて呼んでいるが、そんなたいそうな輩じゃない。」
淡々と話すの弟、揃からはその称を捨てた時の強い意志が感じられた。
それは武士とも近いもののようだった。
「そうそう、弟もこのように申しておりますからしてね菖蒲様。」
厳格そうな弟に華やかな姉で調和もとれ、ようやく本題に入る。
場所は移さなくても良いという菖蒲の意向もあり、お祭り騒ぎを聞きながらの話し合いとなった。
菖蒲は生駒と寝ていた無名を呼んで二人を紹介した。
も含め三人のカバネリは互いに興味を持っていたようだ。
がどうやってカバネリになったのか。
これは遡ること数年前だ。
「多くのカバネがこの高宮駅に襲来しました。駿城のない高宮は壊滅的な被害に合い、残った民人は上田家の屋敷へ避難をしておりました。そんな時です、克城が現れたのは。」
天鳥美馬率いる狩方衆によって駅のカバネは瞬く間に一掃された。
そして上田の屋敷へやって来た美馬は脅え固まる民人には目を向けずに城内を隅々見て回り、そしての身を寄せる部屋にたどり着くと大層憐れんだ目をして、刃を向けてきた。風宮の流れ者だということは気がついていたようだ。
そしても美馬が天鳥将軍からどれだけ酷い仕打ちを受けたのかは知っていた。きっとはかり知れぬ心の闇が彼に取りついているのだろう。
だからといってこちらに刃を向けられるのでは見当違いもいいところなのだが。
は三人の弟と幾人かの従者を守る為に、美馬に薙刀を向けた。
これを聞けば無名には馬鹿でしょうと言われる。
そうであったかもしれない。これで美馬にかなうはずがない。それでも必死だったことだけは覚えている。
そして薙刀一つで立ち向かうを見て美馬は言った。
「お前の強さはどこからくる?」
後ろからは末の弟の泣く声が聞こえる。侍女はひたすらに名を叫ぶ。
「強さなど、私にはない!ならせめてこの身体を盾にするまで!」
その迫力に美馬も目を見開く。
華奢な身体の何が盾になるというのか。
それでも家族を守るためにできることをする。
にはただそれだけだった。