第3章 行き場のない姉弟
一方、菖蒲はうつらうつらと腰かけでひたすらにを待っていた。傍らには侍女の静も重たい瞼を必死に開けているようにも見えた。
さすがに菖蒲の体調に支障がでると来栖はしびれを切らし探して捕まえて連れてこようかと提案しかけた時だった。
まだまだ活気のある広場の人だかりを掻き分けてきた吉備土の姿が目に入る。
吉備土は来栖の方へ来ると、その後ろから何かがひょっこり顔を出した。
手前の大男で見えなかっただけだが、華奢で線が細く黄金の艶髪をもつその人を来栖が見るのはもう三回目だった。
「お待たせいたしましたね。申し訳ございません。」
その女、であるが菖蒲の前まで来るなり腰を低く下げ頭も下げた。
眠いのかそれとも御慈悲からか菖蒲はにこりと笑ったが傍らの静の目付きときたらよくもこんなに待たせたなと、それだけが伝わってくるものだった。
しかしなぜ吉備土といるのかというと、見回りが終わって戻ってきたは弟の揃に声をかけたつもりがそれが人違いで吉備土だったのだとか。
確かに背格好が似ているのだ。樓の上で演奏していた他の三人が皆彼女の弟だったのだが、それを知らなかったにしても来栖は最初、なぜ吉備土があそこにいるのだろうと見間違ったぐらいだ。
そういう訳で吉備土が案内し連れてきたのである。
「すみません、宮様、お忙しいところを無理を言ってしまって。」
菖蒲がへり謙る様を見て周りは違和感を覚えたがそれを払拭したのはだった。
「まぁ菖蒲様。私共なんて分家の分家。私共にはもうそのような称はございません。どうぞと呼び捨てください。」
「そ、そんな!そうは言いましても…」
菖蒲の意識も覚醒し出すと、の後ろにまたも屈強そうな若い男が現れた。
一瞬、あれ吉備土はさっきこちらにいたはずと思い視線をずらせばそこには吉備土がまだいる。
ではこちらは一体…と再度目をやる。
先ほどの話でも出ていた彼女の弟だというのは姉のすぐ後ろにぴたりと立つのを見て気がついた。
吉備土と背格好や髪の長さが似てはいるが顔つきはまるで違かった。吉備土ほど柔らかでないと言えば失礼かもしれないが姉弟で同じ切れ長の目をしていてやはりどこかとも似ている。