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明星の風【甲鉄城のカバネリ】

第2章 カバネリの女


細く通る彼女の歌声に皆が聞き入る。
静かに始まったと思えば太鼓や鍵盤の音が合わさり、それは決して騒音ではなくここにいる全ての人を踊らせる音楽だった。

歌いながら袖を振るい舞いを見せる。
だんだんと早くなり一番盛り上がりを見せるところで民人は一成に鳴子を鳴らし踊り狂った。


無名は順応が早く両手の鳴子を鳴らし踊っていた。
鰍も幼子たちに合わせ小さく踊る。
菖蒲も鳴子だけをカチカチ鳴らしたが周りの空気に押されだしやがて腕を大きく動かした。
生駒も飛び跳ね出した。
ただ一人だけ楽しみかたを知らない男が立ち尽くす。
菖蒲がほら一緒にと言わんばかりの笑顔を向けるが、すぐに顔を反らしてしまう。
いやでも反らしては失礼と気がつき頭を下げる程度に留めた。


高宮と甲鉄城の民人が入り乱れ踊り続けた。
歌がまた静かに終わると、またわぁっと歓喜の声が響き渡った。
間をいれずに次の音楽が鳴り響く。
琴でも笛でもないこの音はなんなのだろうか。
高宮民人は聞きなれているのだろう、なんの疑問もなしにただ楽しんでいる。
いや、それでいいのだ。ただ楽しければいい場なのだ。
生駒は珍妙な楽器を演奏する樓の三人の男たちから目を離せずにいた。
三味線にしては弦が多いなとか、鍵盤に関しては全く知らないのでなんで板から音がでるのだろうとか、大小いくつも寄せ集まった太鼓をどうやって素早く操るのだろうかとか。
高宮の民人の熱狂的な宮様狂たちは歌の節々を暗記していて鳴子をあわせて鳴らしながら歌っていた。
異様な光景に呆れ半分、関心半分といったところか。
だがその楽しい雰囲気の中、来栖たちは嫌な音を聞いた。
スズナリだ。カバネが入り込んだ合図だ。
菖蒲や無名、来栖も生駒も鰍も恐らく散っていた甲鉄城の民人も皆一気に緊張感が走っただろう。
なのにここの高宮の人間ときたらまだ歌い踊り続ける。
何も恐れていなさそうだ。あのスズナリが聞こえなかったのか。
生駒は近くにいた男にカバネが来るぞと袖を力強く引いて伝えるが、男はただ腕を振り払った。


「みなさん!カバネが来ます!避難を!」

菖蒲も声を張って呼び掛けるがやはり聞いてはくれない。やはりおかしな駅に違いないと思った来栖はとにかく菖蒲を先に甲鉄城に戻そうと思ったその時。
の歌も偶然に盛り上がりをみせるころ。
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