第2章 カバネリの女
広場を挟むように連なる長屋から空高く照明が登った。
良く見れば黒子が電光を上へ向けている。
まるで煮焚きをする竈のような大きな照明器具を金属板で塞いだり外したりしてチカチカさせる。
そして光は青や赤にも色を変えて生きているかのように広場をいったり来たりした。
一体どんな業を使ってこんなことが出きるのか、生駒はたいして良くもない目を必死に凝らして観察した。
そして、色が変わるのは何か薄い紙のようなものを照明と重ねているからということがわかった。
その色とりどりの光の帯が広場をかけまわり、樓の中心に戻ってくるとそこには女と三人の男の姿があった。
姿を見せるなり群衆はわあと声をあげて興奮絶頂。
「宮様!宮様!」
「揃様~!」
黄色い声援が矢継ぎ早に飛び交い来栖は全て耳鳴りのように感じた。
甲鉄城の者は皆圧倒されただろう。
ここにいない、どこかで見ている者たちもきっと同じような状況だ。
樓の男女は各々持ち場につき珍妙な琴や三味線を持った。
そしてが一歩前へと出ると伝声管に口元を近づける。
彼女が話すのだろうと分かるとあれほど騒ぎ立てていた群衆があっという間に静まった。
「こんばんは、高宮の皆さん。甲鉄城の皆さん。」
伝声管は町中に聞こえるように繋がっているようだ。
の声が響き渡った。
「もうすでに楽しんでいらっしゃるようで何よりです。笑顔は力を生みます。強き心を作ります。」
突然演説が始まったようだが、周りがなにやらもぞもぞと動きだした。幾人かの武士が籠いっぱいの何かを配っている。配給かと思ったが目の前にまできたそれは一瞬来栖の思考を止めた。
「わぁ~鳴子だー」
無名は愉しげに鳴子をならす。
一人一つ行き渡るように用意されたようだ。
一体これをどうしろというのだ。
思ったつもりが口から出ていたらしい、じゃあちょうだいと無名にとられた。
「鳴子は行き渡りましたか?では皆さんで存分に楽しみましょう。」
の声が静かに演説の終わりを告げると、辺りがまた静まった。
そして笛の音が細く響く。琴の音がそれに重なる。
照明はにのみ強調するかの如く当てられた。