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明星の風【甲鉄城のカバネリ】

第2章 カバネリの女


「宮様は偉い人のことを言うんだよ。」

いや、もう違うんだったかな?と曖昧な様子でいるところに先刻現れた時と同じように群衆をかきわけて無名が戻ってきた。
その後ろにはようやっと着いてきた様子で御髪を乱す菖蒲がいた。
来栖は菖蒲の手を引いて群衆から引き抜くと、よろけた細い体をしっかり抱き止めた。


「ありがとう来栖。」

「大丈夫ですか菖蒲様。」


しかしその手にはしっかりと林檎飴が握られている。


「はい、しっかり握っていましたから。」


飴のことかと半ば呆れるも主君の愉しげな姿に固く結んでいた口も緩んだ。
ようやく赤い飴玉を口に運ぶ菖蒲の顔は至福そのものだった。

「そういえばさ」


無名が屋台で聞いたという話を始める。
その手には芋団子を田楽風にして割り箸に刺したものが握られていた。

「ここのカバネリが宮様って呼ばれてる理由はね、風宮の分家の人だからなんだって。」


風宮自体が分家の称号の一つ、ということは菖蒲と来栖は知っていたが、鰍と生駒はそのなんたるやから無名に説明を受けていた。

しかし幕府の時代にあまり権力のない帝は将軍のお飾りでしかない。その分家の分家なら下侍とさして変わらない身分だろう。
それでも民人からこれだけ慕われるとはやはり皇族の端くれか。

来栖は最初に目にした時の神々しさを思い出した。
確かに普通の人とは違う雰囲気であることに違いはなかった。
だがカバネリだ。
美しいかろうとなんだろうとカバネリだ。やがてカバネになるかもしれないし人の血を飲んで生きている妖紛いにちがいない。
そうするとこのまだ幼さが残る無名や生駒のことも同じように思ってしまっていたのかと自分に問うことにもなる。以前はカバネと同類と思ったが今は少し違う。それでも人間とも違う。答えは出せなかった。
いや出したくないのかもしれない。

ふいに、周囲の明かりが消え、群衆が静まった。
生駒や子供たち、一部の者がなんだなんだと焦りの声をあげる。恐らくそれは甲鉄城に乗っている者だけだろう。高宮の民人は皆静に、その時を待っているかの用だった。

「始まるのでしょうか?」

菖蒲は辺りを見渡し、そしてあれほど燦々と照明を浴びていたのに今や暗闇と混ざりあった樓を見上げた。
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