第2章 カバネリの女
無名はカバネリだ。いろいろあったが仲間であり、腕も立つ。
それほど心配はしなかった。
それにしてもこのお祭り騒ぎの中でも仏頂面を崩さない来栖に生駒は訪ねたかったことがある。
「来栖、カバネリが舞台を開くってきいたんだけど…」
生駒も俄に信じがたい様子だった。
自分らがそれまでされてきたカバネリの扱いを思い出せば、高宮の人の活気は異様ですらあった。
まるで一種の宗教のように。
「ここに来る前にカバネリの女――殿に会った。」
「え!会ったの?ていうか女の人なの!?」
あの神々しい女をどうねじ曲げてカバネリと伝わるように話せばいいのか分からなかった。
考えている間にも生駒は「どんな人?歳は?どうやってカバネリになった?」と攻め立てる。
「知らん!舞台の後で菖蒲様が面会される。その時にお前たちカバネリも会わせたいと仰っていた。」
「ほんとか!?」
生駒の表情は生き生きとしていた。
何を質問しようかぶつぶつ言いながら考え出す始末。
この変わり者と仲間だと思われるのが恥ずかしいとさえ来栖は片隅で思ってしまった。
だが黙って腕を組みただ周りの音を1つ残さず聞き入れようとして待機する様はもう自然と身に付いた。
菖蒲になにかあれば例え霞のような声であっても聞き逃さない自信がある。
さらには周りの状況を取り入れるべく、群衆のがやめく話し声にも耳を向ける。
が、あまりにも入り交じっていてよくは聞こえない。
ただ口々に彼らは宮様、宮様と言う。
そういえばあの遊び好きな武士も宮様と言っていた。
そもそも皇族を指すそれは天鳥幕府の治める将軍の時代には死語に近いものだった。
幼子の一人は鰍に宮様ってなあに?と聞いていた。