第9章 〈勝デク〉傷付けるのも、癒すのも……
「こんにちは。水倉……いゆきくん?」
「はい」
夜中、お母さんにバレないように家を出て、自宅から離れた暗い場所でとある人物を待つ。すると、約束の時刻ぴったりに待ち合わせ場所に車が止まって、運転席の窓から男の人が顔を覗かせた。
30代半ばくらい。大人しそうで優しそうな人。
「良かった。乗って」
「はい」
僕は車の助手席へと乗り込む。シートベルトを締めると、車は発車して進み始めた。
「えっと……ホテルでいいかな? お金は僕が出すから」
「はい、大丈夫です」
ーー僕は学校で嫌なことがあって精神的に耐えられなくなると、こうして知らない人と繋がって忘れようとすることがある。いつから始めたかはよく覚えていない。かっちゃんに虐められて、心が傷付きすぎて死にたくなった時に、インターネットで検索したら、たまたま援助交際で繋がらないかと聞いて来た人がいた。チャットでやり取りをして、いつの間にかその人と繋がっていた。でも、今ではその人のことはあまり覚えていない。それから、定期的にこんなことをしている。
いいんだ、別に。彼と繋がれる時が来ることなんてないんだから……。
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