第5章 ラクスド
ふと窓の外に視線を移すと
屋根の上をオビが走っていくのが見えた
確かオビは盗賊の調査をゼンから頼まれていたはず
一旦報告にでも帰ってきたのかな?
器用に凸凹の上をぴょんぴょんと跳ねるオビを眺めていると
なんだか可笑しくなって頬が緩む
これで全身真っ白だったら、雪兎だよオビ
オビの猫目と真っ白なうさぎの長い耳の
アンバランスさを思い浮かべて
くすくすと笑いながら窓辺に寄りかかり
オビがこちら側に跳ねてくるのを見つめた
すると
ある所でオビが下を気にして、足を止めた
何かに戸惑いながらじっと見つめる先
なんと気なしにさやも下を覗くと
重そうな書類を抱えて白雪がフラフラとしながら
危なげな足取りで歩いているのが見えた
(あ……。こ、れって…。)
嫌な予感が全身を駆け巡った
当たらないで欲しいと祈るその予感は
前世の記憶がフラッシュバックして、確信に変わる
いつか見たひどくて、優しい物語が
今この窓の外で始まろうとしている
(見たくない……)
-------- 白雪が倒れる
オビが ----- 手を伸ばす
オビの優しさが私の胸をギリギリと痛めつける
見たくない、見ていられないと
確かにそう思っているはずなのに
足が、腕が
その場に凍りついて、離れない
ミツヒデに暖められた心も
木々に叱咤されて1歩踏み出した足も
ゼンから貰った頑張る勇気も
全て流れ出して
重くて突き刺さる冷たさの雪だけが
背中にのしかかり、凍りついた足まで埋もれて。
ただただ…、冷たくて苦しい。
それから私がやっと動き出した時には
オビも白雪もいなくなった後だった