第5章 ラクスド
なんでこんな事になってるんだ
なんで誰も気づかなかった
『オビ!もーまたサボってるの?』
『やだなー。オビの知らない所で実は惰眠を貪ってるのだよ』
『っ!ごめん掠っただけ!』
確かに思っていたはずなのに
この人はいつ寝ているんだろう
この人はいつ食べているんだろう
人一倍働いてた。
食事を作り、雪かきをし、薪割りをし
主からの命令をこなし、掃除も洗濯も、看病も
どうやったらそんな量の仕事をこなせるのかと思った
余程手際がいいのだろうと
違ったんだ。ただ寝る間もなく動き続けていただけだったんだ
誰にも心配をかけないよう
他の人に負担をかけないよう
怪我の事まで隠して
「あんたは馬鹿だ…。くそっ」
馬鹿は俺だ。
俺が気づけていたら。
*
ゼン達より先に城に着いたオビが
薬室に焦った顔で駆け込んで来てから
もう ------ 1週間
穏やかな寝息をたてる姉の髪をそっと撫でる
ふわふわと流れる髪は
頼もしく前を歩くさやに靡いてゆれて
私はいつも天使の髪を見ている気にさせてくれた
後光がさしてきそうな後ろ姿。
この髪を見失わないで進めば間違いはないのだと
そんな髪の面影は今はない
「さや…」
ミツヒデの後ろに乗りラクスドから城へと戻ると
薬室の人達がが慌ただしく、動き回っていた
何があったんですか?
何も知らず聞いた私に薬室長が驚いた顔で答えてくれたのを
今でも鮮明に思い出す
”「さやちゃんが倒れた」”
治療室のベッドに横たわるさやの顔には生気がなく
いつの間にか落ちたさやが気にしていた二の腕の贅肉が
さやのラクスドでの
泣きたくなるような自己犠牲を語っていた
診察した薬室長曰く
さやは、薪の毒素を体に溜め込んだまま
ろくに睡眠も食事もとらず、働き続けたせいで
肺炎を引き起こし
あまつさえ受けた剣傷も消毒もしないで放置
膿んだ傷口が発熱を起こし
流れた血が水分を奪って汗すらかけてない
との事だった。