第5章 ラクスド
「さや殿!」
『皆!もう動いて大丈夫なの?
何処か痛い所は?』
「ないですよ!ほら!」
さやの帰還に嬉しそうに手を振る兵士達
薬を飲んでよく休んだからか
顔色もよく、元気そうに力こぶを作ってみせる兵
ああ、よかったと心から思った
やっぱり苦しむ人達を見ているのは嫌だから
豪快に笑う兵士達の髪を
1人ずつぐしゃぐしゃと撫でてやる
すると上から真面目にやれーとゼンの声が降ってきた
見上げた先には白雪とゼンが
眩しいほどの笑顔でこちらを見ていて
私はゼンと白雪に、大きく手を振り返して
慌てた兵士達がいそいそと雪かきを再開し始めたのを横目に
また後で手伝うねと声をかけ
報告の為にゼンの元へと向かった。
『南の塔は問題なかったよゼン』
「そうか。ご苦労」
『じゃー私は雪かき手伝ってくるから』
「待て待て。お前さっき帰ってきたばかりだろう
少しは休んだらどうだ?」
ゼンに南の塔の報告を済ませ
さあやるぞと腕まくりをすれば焦った顔のミツヒデに手を引かれた
外に出ていて外気に晒された指先に触れる
ミツヒデの大きな手の温もりが、暖かい
『ん。ありがとう』
「ほら、よしよししてやる」
小さく握り返した手のひらに
目敏く反応したミツヒデがおいでとばかりに長い腕を広げる
ゆっくり倒れ込めば
暖かいぬくもりと広くて硬い胸板
背中に回る腕から伝わるミツヒデの優しさ
疲れ切った体に
同調しては、ささくれていく心
ミツヒデの力強い腕の内側は
胸を苦しくさせるのに、充分だった
今すぐ休みたい
暖かさと共にベッドへ入って
疲れたと泣き喚いて
話を聞いて
頭を撫でて欲しい
弱音を吐いて、泣き出してしまいそうな
自分にギリギリと唇を噛み締めた
泣くな泣くな泣くな
白雪はこんなんじゃ泣かない
白雪はまだまだ頑張ってる
ミツヒデはそんな心の奥の弱さを掬いあげるように
いつもキツくさやの髪を結んでいるリボンを優しく解き
ふわふわとゆれる髪をゆっくりと撫でた