第5章 ラクスド
「そりゃどーも。…って俺サボってないですってば!」
『そういう事にしといてあげよう。
じゃあ私これ干してくるから。
またね、オビ』
砦の裏口付近でそう言ったさやは
薪が干してある小屋の方へ歩いて行く
まあ俺の命令は音の確認だし
このまま主の所に戻って問題ないかな
凍えそうな雪に足跡を残しながら
遠くなる小さな背中を見送って
俺は暖かい城内に寒さから逃げ出すように駆け足で戻った
*
ラクスドへ来てから、一体どれくらい経ったのかな
ぼーっとする頭に持っていかれそうな意識を
ぶんぶんと髪を振り乱し引き戻す
白雪が来て薪に気付いてくれて
やっと苦しむ兵士達をあの毒素から助け出す事が出来た
予想通りあの薪以外の薪は殆ど残ってなくて
白雪が来る前に薪割りをしておいたのは正解だった
私は白雪みたいに薬を作ることも
料理を作る事も出来ないから
皆の手伝いをしていくしかない
白雪が作ってくれた朝食のスープをぐるぐると混ぜながら
隣の薬の鍋にも火をつける
沸騰させないよう気をつけながら交互に鍋をかき混ぜる
どうにもこの薬はドロドロしているからか
焦げやすいらしい
気をつけて混ぜないと…
兵たちに配ったら…次は雪かきに薪割り
その前に兵に持たせるサンドイッチと…
後、怪我してる兵の包帯を替えなきゃ
『やる事、沢山だな…』
「さや!ちょっといいか?」
『ああ、ゼン…。どうしたの?』
鍋の火を止めて振り返ると
ゼンが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた
反応が遅すぎたかな。いけないいけない。
「…体調でも悪いのか?」
『ううん。全然!
朝は少し苦手なんだよね。ふぁぁ』
あからさまな欠伸にゼンは苦笑しながら
頭をぐしゃぐしゃっと撫でてくれた
暖かい手の温もりが響く頭痛を和らげて
離れていく時に思わず引き止めたくなってしまった。