第2章 ラジ王子
「な、何を…!?
君は本当に何を言っているんだ!」
顔を真っ赤にして慌てふためくラジに
さやはキツく縛っていた髪を解き
風に吹かれるまま靡かせた
「さやっ!
貴女が行く必要ない!」
『いいの、白雪
貴女の代わりになれるなら本望だわ
ラジ王子、いかがですか?
私では役不足でしょうか?
どうか私を連れていく代わりに
白雪の大事な友人に…薬を。』
揺れる髪が、風にのって
甘い香りを運んでくる
いつか聞いた事があった
その時は、そんな馬鹿なと相手にしなかったが
全身桃で出来たような
完熟の桃の香りのする
美しい桃の精がいると
ラジは逃げる髪をそっとひと房手に取った
「さやいいの…!
私が、私が行くからっ…!」
「却下ぁぁ!!」
白雪がそう言ってさやに1歩近付いた時
応接間の扉が蹴り破られ、男が一緒に飛ばされてきた
そこには
青白い顔をしたゼンが、剣を手に立っていた
「それ以上その娘の耳が汚れるような
戯言を吐かないでもらおうか
ついでにその髪を離せ
お前には勿体ない娘だ」
「ゼンっ…!?」
『(全く…遅いよゼン)
ついで扱いとは酷いねゼン』
立ち上がった男に剣を振り上げ
何度か交わしたのち男をのすゼン
白雪はゼンに駆け寄ると信じられないと
目を見開き、あちこちゼンを見回した
「よう白雪。これ結んでくれ」
「さや早くこっちに」
呑気に白雪に腕を突き出すゼン
兵を拘束していたミツヒデは木々に兵を託すと
さやに手を伸ばした
ラジの手から逃れるように
さやはその手を取り、駆ける
『ミツヒデありがとう
助けに来てくれて、嬉しい』
「気にするな
ゼンが行くってきかないからな
それより、後ろへ」
ミツヒデがさやを守るように前に立つ
さやは微笑むと
ミツヒデの隣に立った
『私も戦えるよ』
「…そうか」
「っ!口の聞き方を弁えろ男!
私と君とでは身分が違うのだぞ!」
ゼンと何やら話していたラジが
大きな声で威嚇するように叫んだ