第1章 Prologue
中年はパンとスープ、オレンジを持って教会へと戻ってきた。野菜のスープだろうか。温めてきたそれは食べ物の匂いを部屋中に満たし、ベリルは思わず口を抑え吐き気を必死に堪えた。その様子に中年は慌てて食事を裏に戻す。そしてゆっくりとベリルの容態が落ち着いた時に何があったのかと尋ねてきた。
インベルに拾われこれまでユラ家で過ごしてきた事。そうしてこれまであった事。逃げ出してきた理由。
ベリルは今まで溜め込んでいた全てを包み隠さず話した。ユラ家以外の人間に会う事自体が久方ぶりで、誰でも良いから話を聞いて欲しかったからこそ、思っていたよりもスラスラと言葉が出てきた。しかし辱めを受けた事を黙っているつもりであったが、先程まで決壊したダムのように喋り続けていたベリルがいきなり口どもった所を男に指摘され仕方なく白状をする。
口に出した途端、男が青い顔をして「…あのユラ家が」と呟き考え込む。その姿にベリルはどうして良いか分からず口を閉じて視界をさ迷わせた。
「アラキタシア様…。貴女様には幾つかお伝えしなければなりません。貴女様の運命とそして貴女様自身の身体に何が起こっているのか」
考え込んでいた彼が決心したように伏せていた顔を上げ口を開いた。その声は少し震えている。
彼の真剣味を帯びた表情を見て事の重大さを知り、己の運命を受け入れるためにベリルは見つめ返す。
その瞳は黄金色に光っていた。