第1章 Prologue
ベリルの身体に異変が起き始めたのはそれから数日が経ったころだった。
まず全身がダルく、1日の活動時間が減った。
そして、遂に食事の匂いで吐き気を催す様になり酸っぱいフルーツを好みだした。
分かりやすい変化にインベルの両親は歓喜し、ベリルに何かあってはいけないと四六時中使用人の監視の目が入った。就寝中にふと目が冴えて起き上がった時にも「どうされたのですか!?」という声と共にベッドに向かってくるメイドの姿に、今までの軟禁状態にさえ音を上げていたベリルには耐えられなかった。
あんなに嫌で嫌で仕方なかった裏路地生活に恋焦がれた。
私は病気のはずなのになんで喜ばれたんだろう…。
ただでさえ幼くその上1人で生きてきたベリルにはスリの技術とユラ家で教えられた知識しかない。その少ない知識で病気という漠然な回答しか出てこないのは至極当然なことである。
…怖い。こわいよ。インベル…。なんで来てくれないの…。私、死んじゃうの…。嫌だよ…。
弱っていく身体と比例して精神も削られていく。
まだ140cmと少しの少女にとって負担の大き過ぎるものを背負わせられ、精神のピークに達するのにそう時間は掛からなかった。
監視という名のメイドの目を掻い潜り、培ってきた脚力で部屋を飛び出す。
当てはなかった。闇雲に走った。
無意識に足が向いていたのだろう。そこはインベルに連れられてよく行った教会だった。アルバレス帝国が出来るずっと前からあったというアラキタシア最古の教会。誰がなぜ造ったのか一切分からない。唯一分かるのはそこのステンドグラスの天使を祀っているのだろうということのみ。見た誰もが言葉を失ってしまう程綺麗な天使。
インベルが好んで出向き、ベリルもついて行った。
ベリルもその場所が好きだった。