第1章 Prologue
ベリルは生まれた時には親がいなかった。捨て子だった。
アルバレス帝国。最も華やかな中心、スプリガン皇帝の御座す城を囲む街の一角。ゴロツキや闇ギルドなどが蔓延る治安の悪い裏世界でただただ生きていた。町民の大半が貴族と呼ばれるような上流階級の人間で、親のいない孤児には此処にしか居場所がなかった。
生きるだけで精一杯、何日も飲み食い出来ない日があるのが当たり前。そんな絶望の中、ただただ生きてきた。
「こらっ!!またお前か!!子供だからといって今度という今度は許さねぇからな!!」
出店がある通りで食べ物を盗む事で食いつないでいた。しかし、たった齢5歳の人間に限界は訪れる。
「……あっ、ゴメンなさい。もうしませんから…」
「そんな言葉が通じると思うなよこの泥棒め。これまでの食べ物の代金を返せ!!」
今まで野菜や果物を盗んできた屋台の店主に捕まり店の裏の路地まで連れていかれる。
お金が無いから盗んでいるのに返せるわけがない。
「そんなのできないです…。おかねないから…」
「それで済むわけねぇだろ!!金がねぇなら身体で払え!!奴隷に売りつけてやる」
「はなしてっ!!やめて!!」
大の男とまだ片手で年齢が数えられるほどの子供。その力の差は歴然でベリルは藻掻くが掴まれた右手はビクともしなかった。
しかし……
「ぐあっ!?俺の腕がぁぁぁぁぁ!!」
「キャッ…」
強い突風により店主の腕が引きちぎられ、右手が解放される。店主はあまりの痛みにのたうち回っていた。
「大丈夫かい?」
あまりの恐怖に腰が抜け動くことの出来ないベリルの頭上から声が掛かる。ベリルは反射で振り向けば、そこにはベリルより少し年上の少年とその親であろう男が立っていた。