第5章 Say goodbye
「ああ…。…ああ。うぅ…」
やっと自分で決めたのに。
ノエルの流す涙は重力に沿ってシーツに跡を残す。
人として神鳴殿を壊した。だから生体リンクの影響も受けた。
好きな人の為に、自分の為に。子を捨てるのだと決めたのに。
ノエルの胎にいる子は時を止められながらも、その豊潤な魔力のナカで着実に育っていた。
元々天使の子なのだ。天の使いの胎の中という好条件下で数年も留まっている。ナカにいる子がノエルと同等の力を備えていたとしても不思議ではない。
それは生体リンクで受けたダメージをもろともせずに居座り続けた。
今のノエルがこれに対し出来るのは、もう一度胎の時を止めること。産む時を遅らせるしか道は残されていなかった。
もう子を殺す事すらも叶わない。
「これは罰……なんでしょうね」
天の使いであるにもかかわらず一丁前に人で在りたいと、子を宿し十年近く産むことも殺すこともしなかった。その上一人前に人を愛するヒトに成りたいと、今更都合良く子の存在を殺そうとした。
そんな身勝手なモノが天の使いであっていいはずが無いと暗に告げているのだろう。
……こんな清浄でない私は、誰の枷になってはいけない。ヒトに成れない私が、人の心を縛っていいはずが無い。
ボロボロである自身を自身の手で癒すという、人で在ればなし得ないはずの方法で傷を塞ぎ、静かに息を吐く。
それから重体の身であるはずのノエルが動く事など出来ないため、ひとまず体をベッドに預けることにしたのだった。