第4章 Cry in the cathedral
「…これで大丈夫」
急激な収縮により破れかかっている血管を魔法で正常に戻す。次第にマカロフの荒い呼吸も収まっていった。
「………ノエルか。すまんのう」
「これくらいなんて事ないです」
弱々しいマカロフがシーツから出してきた手をノエルは両手で包み込む。
「…お前さんにマスターをやって貰えたら良いんじゃが」
「私は…そんな器じゃ…」
「それは無い。お前さんは誰よりも立派じゃよ。ただ…出来ない理由はそこじゃないじゃろ?」
ノエルは黙り込み、下を向いた。出会った時と同じ空気を漂わせて。
マカロフがノエルの手を強く握る。その力強さに思わず顔を上げれば、厳しい顔のマカロフが居た。
「今更具体的な内容は聞かんよ。お前さんの事情は聞かんが、避けている事だけは分かる。フェアリーテイルを隠れ蓑にしたいんじゃろ?お前さんが外に出ていったら困るってことくらいはお前さんを見ていれば一目瞭然じゃ」
「……」
マカロフの言葉の語尾にラクサスもとついているのが分かり口を結ぶ。
「どうしてこの前は外に出ていった?」
「……」
「お前さんを責めるつもりはない。お前さんの心境の変化が聞きたいだけなんじゃ」
依然、マカロフの顔は険しいが纏っている雰囲気が少し緩む。手に籠っていた力はいつの間にか抜けていて、普通の好々爺の手に戻っていた。
「わ、わたしは。私は家族を守れるヒトに成りたかった」
ギルド間での争い禁止の法があるため評議院による解散の危機は多々あったものの、物理的な崩壊の危機はこれまで無かった。だからこそ自分の居場所を守りたかった。
もう他の場所を居場所には出来ない。私の居場所はここしかない。
ノエルにとっての唯一無二の暖かい我が家だから。
「そうか…。ありがとう、ノエル。ワシにとってお前さんは大事な子であり孫じゃ。絶対に無理はするな」
「…病人は寝てて」
起き上がろうとするマカロフを力を込めて横にする。痛いと下から聞こえる言葉は無視し、ノエルは立ち上がる。少し前までの沈んだ顔は強い意思を持ったものに変わっていた。
「私は家族を守れるヒトに成りたいの」
医務室を出ていった彼女の凛々しい顔に見蕩れて反応の遅れたマカロフはノエルが部屋から消えた後にふっと意識を取り戻し、その力強さに安心して眠りについた。
