第10章 標的10 お医者さん
(綱吉、どうしてあんなに慌ててたんだろう?)
綾里は綱吉の部屋の前で首を傾げたが、すぐに顔を横に振った。
―――いけない、頼まれたことを実行しなくちゃ!
少女は握りこぶしをつくり気合を入れなおすと、階段を降りようと足をかけた。
ヒュウ~♪
突然口笛が鳴った。
綾里が下を凝視すると、そこには黒のシャツに白衣を着た男の姿が。
頬を赤らめニマニマと笑う男は、ぐっと親指を立てて喜んだ。
「綾里ちゃんナイス、アングル♪ 白にピンクのリボンか、やっぱ女の子だよな~」
……白にピンクのリボン……?
綾里は一瞬何の事を言っているのかと思ったが、すぐに答えを導き出した。
それは今日綾里が履いている下着の―――
「きゃ―――」
「食らいなさい!!!」
綾里の悲鳴はポイズンクッキングを持ったビアンキによって遮られた。
虫が沸いたケーキワンホールが男の顔面に直撃する。
ビアンキは綾里を見上げて優しく笑った。
「綾里、もう大丈夫よ。久しぶりに世のためになる殺しをしたわ」
ビアンキが満足したのも束の間、男は何事もなかったかのように立ち上がった。
男は今度はビアンキをターゲットにして、
「やっぱ女の子はそーでなくっちゃ~~っ」
タコのように口を窄めた男がビアンキにキスしようと迫る。
綾里はわなわなと震えると、勢いよく階段から飛び降り、
「チュウー!!!!」
「ぐふっ!!」
男にキックをかました。
綾里はビアンキを庇う様にして前に立つと、男をキッ、と睨み付ける。
「シャマルさん、お久しぶりです!というか、ビアンキさんにち、ちゅうなんてさせません!!――― 大丈夫ですか、ビアンキさん!? 今度は私が守ります!」
「綾里……!」
ビアンキがキュン、とときめいた。