第10章 標的10 お医者さん
「すまなかったな、綾里。疲れただろ」
―――沢田宅。
綱吉を彼の自室のベッドに運び終えた綾里に、リボーンが謝罪を述べる。
綾里は元気に微笑むと、
「いいえ、私なら全然大丈夫です。 小さい頃、よく綱吉をおんぶしてましたから!―――リボーンさん、 ドクロ病は、死に至るまでに 人に言えない秘密や恥が文字になって全身にうかんでくる奇病……でしたよね」
「ああ、そうだぞ。死ぬ気弾を10発くらったのが原因だ」
綾里は胸の前で両手を力強く握り締めた。
「……っ、だったら! 私の力で治せば―――」
「駄目だ」
「でもっ!!」
少女の提案をリボーンが即座に反対する。
綾里は悲痛な声を上げたが、それでも目の前の家庭教師は首を横に振った。
綾里が辛そうに俯く。
「……私がまだ"未熟だから"ですか? 力を上手く使いこなせないから―――」
「それは違うぞ。オレはお前に代償を払ってほしくねぇんだ」
思いもしなかった告白に綾里が顔を上げ、リボーンを見つめた。
エメラルドグリーンの瞳に困惑の色が宿る。
「どう、して……それを……っ」
「悪いが調べさせてもらった。 ―――綾里、お前にはいつだってツナ達と一緒に笑顔でいてほしい。それがオレの願いだ。その為なら何だってする、諦めたりしねえ。 だから綾里も、絶対に諦めんじゃねぇぞ」
「最後の一瞬まで―――いや、無理だって分かっても諦めたりすんな」と、何とも彼らしい言葉が返ってくる。
綾里は、リボーンの小さな体をそっと抱きしめた。
―――私だけじゃない、彼にだって背負っているものがある筈なのに。
全てを知った上で、それでも彼は力になろうとしてくれている。
綾里は、「ごめんなさい」と「ありがとう」の代わりに、笑った。
彼の願い通り、仲間達と一緒にいる時の笑顔で。
「私、もっと努力します。どうすればいいか考えます、皆と笑って過ごせるように。もちろんリボーンさんも一緒、ですよ」
「!……ああ、約束だ」
2人は笑いあった。