第10章 標的10 お医者さん
ガシャン!!!
フェンスが音を立てて揺れる。
綾里が驚きと恥ずかしさのあまり、頭をおもいっきりぶつけたのだ。
「……ッ」
頭を両手で押さえ、痛みを我慢する綾里。
綱吉の方を見ると、彼は片手で口を押さえ必死に笑いを堪えているが、肩が小刻みに震えていた。
「……っ、ほんと可愛いんだよ、お前……ははっ、おかし……っ」
とうとう声を出して笑い始める綱吉。
さっきまで苦しそうだった彼はどこへやら。
ようやく幼馴染の演技に気付く綾里。
顔が瞬時にかああ、と赤く染まった。
「またからかったのね!? 綱吉の意地悪!!」
ぽかぽかと綱吉を叩く綾里。
何だかご飯を貰い損ねたハムスターの小さな反撃みたいだ。
それがまた可愛くて面白くて。
「ははっ、ごめん、ごめん! でもお前が可愛いと思うのは本当だよ」
「~っ!?!? 私、本気で心配して……もう、知らない!!」
ぷいっ、とそっぽを向く綾里。
綱吉は笑うのを止め、困ったように頭を掻いた。
(ヤバイ、やり過ぎた……!)
彼にとって綾里は、小さい頃から一緒にいる幼馴染であり、好きな子であり、いつも支えてくれる姉のように頼もしくもあれば、時には守ってあげたくなるような妹のようにも思える。
結局のところ、彼女が好きすぎて ついつい、やりすぎてしまうのだ。
それがかえって 本当の気持ちに気づいてもらうのに、遠回りをしてしまっているのだけれど。
どうした訳かやめられそうにない。
「綾里、ゴメン。 お詫びに何か奢るからさ」
「ふん! その手には乗らないんだから―――」
「確か、駅前のクレープ屋。 季節限定の新作、出たよね」
「!!」
ごくり、と息を呑む音が聞こえる。
綾里は横目でチラリと綱吉を見た。
そして小さな声でぼそぼそと呟く。
「…………トッピングにアイス、つけてもいい?」
「くすっ、いいよ」
「ありがとう、約束だからね!!」
仲直りと約束の証しに互いの小指を絡ませ合う2人。
笑って、泣いて、時には喧嘩して。
こうして2人はこれからも絆を深めていくのだろう―――。
END