第10章 標的10 お医者さん
それは花が持ってきた一冊の少女漫画。
そこではヒロインとそのお相手である少年が深い口付け、所謂 "ディープキス"をしていた。
目にした綾里は、
『うわあああ!? きょ、京子ちゃん! 見ちゃダメっ、いけないよ!!』
大慌てで京子を両手で目隠しする綾里。
京子は優しくその手を解くと、にこりと微笑んだ。
『大丈夫だよ。私は綾里ちゃんに見てほしくないな。それより、こっちを読んで色々理解して?』
京子は綾里に 女子同士が抱き合っている表紙の漫画を渡そうとした。
額に汗を浮かべた花がすかさずそれを阻止した。
『そっちの方がもっと見せちゃいけないでしょ!?―――綾里、これくらいで驚いてどうすんの。今時、小学生だって普通に読んでるわよ?』
『そうなの!?』
ガーン、とショックを受ける綾里。
『この調子じゃ、沢田達も苦労するわね……』
花が苦笑いした。
京子が花の服の裾をくい、くい、と引っ張る。
『ねぇ、ねぇ、花。私は?』
『はい、はい。京子、アンタも大変よね』
『どうして、綱吉達が出てくるの? それに京子ちゃんも……?』
頭上に大量の疑問符を浮かべる綾里。
花は今度は優しく笑って、
『綾里は綾里のペースで知っていけばいいわ。今はまだ"ほわわん"でいなさい』
『ほわわん???』
ますます首を傾げる綾里に、花は何だか姉か母親にでもなったような気分で親友の頭をよしよしと撫でた。
―――とまあ、つまりはこの日、綾里のキスに対する認識が変わった。
あんなに深い口付けの仕方があることを初めて知った。
今までキスのことを、"おとぎ話のようなお姫様と王子様のキス" 程度にしか考えていなかった彼女にとって、それは成長したといえよう。
―――が。
綾里は想像した。
今彼女の頭に浮かぶのは、あの時読んだ漫画のキスシーン。
沸騰するくらいの勢いで綾里が顔を真っ赤にさせた。
「わ、私と綱吉が、チュウー!?△¥×#○%$@yahoo.co.jp!?」
……この少女には、まだ早いのかもしれない。