第8章 標的8 不幸少年
『…………………………』
周囲に痛いくらいの沈黙が訪れる。
急激に空気が重苦しくなった気さえした。
誰も何も言わない、というか言えない。
まるで静止画の様に一ミリも動かない綱吉が怖ろしく感じるからだ。
何時間とも思えるような静寂の後、綱吉が静かに口を開いた。
「……分かった。 オレ達の恋敵に相応しいかどうか野球で見定めてあげる」
「や、野球? な、なんで急に―――」
「何? 文句あるの?」
穏やかに言う綱吉。
さっきと変らない様子なのが余計に怖い。
入江は冷や汗を掻いた。
「い、いえ! ありません……!」
「そう、よかった。 今、 専門家を呼ぶから待っててもらえる?」
「は、はい!! (……嫌な予感がするのは気のせいだろうか?)」
綱吉はズボンから携帯を取り出すと短縮ボタンを押した。
数秒のコール音の後、相手と繋がる。
『ツナ、どうしたんだ?』
「山本、今から野球やらない? ちょうど今、
いいボールが目の前にいるんだよね」
「!!!」
「オレがピッチャーやるからさ、山本がバッターやってよ」と入江を見ながら ニタァ、と笑う綱吉。
魔王だ、間違いなくこのお方は魔王だ……!
慌てて帰ろうとする入江だったが 行く手にリボーンとビアンキが立ち塞がる。
「逃げんじゃねぇぞ」
「これも愛の為よ。 ご愁傷様」
「そんなああああああ!?」
数分後、綱吉から全ての事情を聞いて目の色を変えた山本がマッハな速さで現れた―――金属バットを抱えて。
ニコニコと笑みを浮かべる2人の魔王。
唯一の幸せといったら綾里と出会えたことだが―――とりあえず今は不幸としか言い様がない。
―――その後、あまりの恐ろしさに泡を吹いて気絶してしまった正一君は、
木箱と共に自宅に送り届けられたそうです。
END