第5章 標的5 入ファミリー試験?
「ふぁ~ねむい」
朝の独特の空気。
下駄箱に向って足を進めながら綱吉は大きな口をあけて欠伸をした。
隣で綾里が心配そうに見つめる。
「大丈夫? 綱吉」
「うん、平気。 ありがとう、綾里」
綱吉が優しく微笑み返した。
「よおツナ、綾里」
するとそこに山本が現れる。
「山本! おはよ!」
「おはよう、武!」
「っあ、ああ、おはよう……綾里」
屋上での1件以来、お互いに呼び捨てにすることになった綾里と山本。
彼女のことを 【1人の女の子として好き】 だと気づいてからは、以前と接し方が違ってくる訳で。
山本は綾里に笑顔で名前を呼ばれたことに頬を赤く染めた。
それを見た綾里もつられて顔を赤くする。
2人はまるで初々しいカップルの様に見えた。
「おはよう、山本武? (朝からいい度胸だな、あ゛?)
「ッ!? おはよう、ツナ!」
ニッコリ笑った綱吉に山本は慌てて言った。
ヤバイ、このお方も綾里の事が好きなの忘れてた……!
親友が恋敵とは厄介なものである。
「―――そういえば!」
綾里は立ち止まると、通学鞄から がさごそとある物を取り出した。
「はい、これ。 この間約束守れなかったから……」
山本に差し出したのは、透明の袋と青いリボンでラッピングされたクッキーだった。
クッキーはなんと野球ボールとバットの形をしている。
律儀にここまでしてくれたことが 山本はとても嬉しく思った。
彼は大切そうに そっと丁寧に包みを受け取る。
「ありがとな、家宝にする」
「いや食べろよ」
真面目に言った彼に綱吉がすかさずツッコんだ。
山本は「……あ!」と気づく。
どうやら無意識に言葉にしていたらしい。
3人はそれが面白くなって、お互いに笑いあった。