第3章 標的3 野球少年
日が沈み、暗くなった校庭。
「うっわ、何コレ甘ッ!! マズッ!!」
鉄棒に座る少年が口にあったものを ぺっ、ぺっ、と吐き出した。
彼は幼い外見とは裏腹に ほんの少しの糖分でも駄目なくらい極端な甘いもの嫌いらしい。
黒服に身を包んだ少年―――咎(とが)が手にしているのは、【綾里が失くしたガトーショコラ】だった。
ガウン!!!
不意に少年目がけて銃が放たれる。
咎はそれを難なくかわすと、ワザと手を滑らせたように持っていた菓子を地面に落とした。
「あ~あ、キミのせいで落としちゃった~、綾里が作ったスイーツなのに~」
「下手な演技はやめろ」
愛銃を片手に現れたのは、瞳に怒りを宿したリボーンだった。
「あは、 ”呪われた”子が ボクに何のよう?」
「……お前、綾里に何しようとした?」
地を這うような声で言うリボーン。
一般人なら卒倒するくらい迫力ある声だったが、 【普通ではない】 少年には効き目はなく。
咎は相変わらず笑っている。
「別に~? ただちょっと起こそうとしただけだよ~。
……いつまでも、 眠ってるアイツが悪い」
最後急に無表情になり、吐き捨てるように言った彼はすぐに元の笑顔に戻る。
今のが咎の素なのだろう。
彼はいつも人の気に障るような話し方をする。
無邪気な子供のように、何も知らない無垢のふりをして腹の底では何を企んでいるか分からない。
リボーンはそんな少年が気に食わなかった。
「今度綾里に手を出してみろ、その時はただじゃおかねぇ」
「アハハ!!―――やれるもんなら やってみろ」
少年はニコッと笑うと、「じゃあね~♪」と闇に溶けるようにリボーンの目の前から姿を消した。
―――彼はいずれ再び姿を現すだろう、 その時 が来たら。
自分が 呪い を背負っているのと同じように、綾里もまた逃れられない 宿命 を背負っている。
「綾里……」
春の陽だまりのように笑う少女を想い、リボーンは目を閉じた。
END