第3章 標的3 野球少年
「山本君、綱吉っ!!」
「綾里!?」
「いのり!? くそッ……!!」
綾里まで落ちるとは思っていなかった綱吉と山本は驚き青褪めた。
自分が抱きしめて衝撃を防げば もしかしたら彼女だけは助かるかもしれないと、2人は手を伸ばすが届かず。
綾里は覚悟を決めたように ただ前を見据えていた。
『―――青き薔薇の名のもとに命ずる、風よ我等の助けとなれ!!』
綾里が唱えた瞬間、周囲が幻想的な蒼い光で輝きだす。
風は急速に穏やかになり、地上でドーム状に変化すると ふわり、と3人の体を受け止めた。
綾里は少年が起こした風を逆に利用したのだ。
「成功……した……」
苦しそうに息をする綾里に綱吉と山本が駆け寄った。
山本が綾里を心配そうに見つめる。
「いのり、大丈夫かっ!?」
「私は平気。 それより、山本君と綱吉は大丈夫? どこも怪我してない?」
どこまでも他人を気遣う綾里に2人は笑みを零した。
「大丈夫。 綾里、今のって……」
「! ぐっ、偶然風がクッションになったんだよ!ミラクルだよね!!」
「綾里……」
明らかに彼女は何かを隠している。
幼馴染の隠し事に綱吉は寂しさを感じた。
そんな2人の様子を見ていた山本が綱吉の肩をぽん、ぽんと叩くと綾里の方を見てニカッと笑う。
「本当に奇跡ってあるのな!」
「う、うん、そうだね!」
綾里は山本につられて笑った後、とても小さな声で「ありがとう」と呟いた。