第3章 標的3 野球少年
「よかった……」
ぺたんと地面に座り込む綾里#。
山本が無事でよかったと、彼はもう大丈夫だと そう思った。
『あ~あ、もっと面白い展開を期待してたのに、がっかり~』
「っ!?」
突然聞こえてきた少年の声。
本人が何処にもいないのは、綾里の脳内でのみ聞こえているからだ。
皮肉を嘆くその声音は、まるで小さい子供が親からもらった玩具に「自分が欲しがっていた物ではない」と不満を言っているように聞こえる。
そしてその声は、綾里が一番聞きたくない相手ものだった。
「い……や……嫌……ッ」
「綾里?」
「どうした、いのり?」
急に顔を真っ青にして怯えたように呟く綾里に綱吉は振り返り、山本はフェンスを登ろうとしていたのを止めた。
他のクラスメイト達も驚いたように綾里を見る。
彼女の反応が面白いのか、綾里にだけ語りかけてくる少年は大笑いした。
『アハハッ! いいね~その顔! もっとイジメたくなっちゃうな~。……あ、イイこと 思いついた!
ボクが彼を落としてあげる』
「!? 山本君、早くこっちに来てっ!!」
「いのり、急にどうし―――」
綾里の叫びも空しく唐突に強い突風が吹き荒れる。
人為的に起こされた、全てをなぎ払うような風は、いとも簡単に標的である山本の体を浮き上がらせた。
「なっ!!?」
「山本ッ!!!」
「ッ、山本君、綱吉!!」
綱吉がフェンスに寄りかかり、山本の手を掴んだ。
しかし運の悪い事に、そのフェンスは錆びれている。
止まない強風に 皆自分の体を支えるのに必死で誰も手を貸すことが出来ない。
そして ついに、
ブチッ
フェンスが嫌な音を立てて折れ、山本と綱吉の体が外に放り出された。
「うわああっ」
「ぎゃあぁあ」
山本と綱吉の叫び声、キャアアアと女子が悲鳴を上げる。
誰もが最悪の事態を予想し、目を瞑った。
そんな中、
「――――ッ!!!」
「綾里ちゃんっ!!?」
京子が悲鳴に近い声で叫ぶ。
綾里は躊躇いもなく山本と綱吉の後を追い、自ら飛び降りた。