第3章 標的3 野球少年
「山本君!!!」
そこへ苦しそうに息を切らせながら 綾里が現れる。
綾里は、ふらふらと綱吉と山本の近くまで歩み寄るが ぐらっと体が傾いてしまった。
「綾里!?」
「いのり……ッ」
慌てて綾里の体を支える綱吉。
山本も駆け寄ろうとしたが、フェンスに阻まれている為叶わない。
「綾里、大丈夫!? どこか悪いんじゃ……っ」
「へいき……ちょっと……気分が悪いだけ……」
綾里は綱吉に「心配かけてごめんね」と言うと立ち上がった。
そして真っ直ぐ山本を見つめる。
「……死ぬなんて嘘だよね? だって昨日 私のお菓子楽しみにしてるって言ってくれた、約束、したもの」
「そ、それは……」
とても悲しそうな綾里が直視できず、山本は目線を逸らしてしまう。
死ぬのは嘘だと肯定してくれない山本を見て綾里は静かに涙を零した。
「山本君の腕は完全に駄目になったの? 生きてれば上手くいかないことだって変える可能性はいくらだってある。……でもね、死んじゃったら何もかも全部終わっちゃうんだよ。 私はそんなの嫌、絶対に嫌……っ」
これは山本に向けた言葉だが ここにはいない 【誰かに】 も向けられているような感じがする。
綾里は想いの全てを山本にぶつけた。
「お願い、生きて、生きてよ、武!!!」
「!!いのり……」
周りのクラスメイト達も 「そうだ、死ぬなよ!!」 「山本君、死んじゃ嫌!!」 と次々と声を荒げた。
綱吉は滲んだ涙を腕で拭うと、ニコッと笑った。
「山本、もう そんな所にいなくてもいいだろ? ……こっちに来なよ」
「……そうだな。 皆……わりぃ!オレどーかしちまってたわ!」
ニカッと笑う山本はいつもの人気者の彼に戻っている。
他の者達は ほっと安心して彼が思い止まってくれたことを喜んだ。