第3章 標的3 野球少年
普段の綱吉とは思えない怒鳴り声にクラスメイト達は驚く。
綱吉は本気で怒っていた。
山本はその気迫に、綾里という名に、息を呑む。
一度軽く深呼吸して気を落ち着かせた綱吉は 、静かに ゆっくりと口を開いた。
「オレ 山本や綾里みたいに何かに一生懸命打ちこんだことないんだ……。最近始めた勉強だって、綾里のライバルが増えて、焦って、綾里によく思われたいから始めただけだし……。結局それもうまくいかなくて……オレは好きな子に守られてるような情けない奴でさ。でも、綾里はこんなオレの傍にいてくれる、いつだって笑って支えてくれるんだ」
『だいじょ……ぶ……早く……山本君……とこ……行って……』
『でもっ!!』
『おねがい……っ!!』
―――あの時、綱吉の腕を掴んだ綾里の手はとても震えていた。
山本を止めてほしいと、自分に縋るその姿は、【親しい人間がいなくなってしまうかもしれない】 という事に酷く恐怖していた。
周りの人間が傷つくことを誰よりも嫌う、そんなあの子をこれ以上悲しませることは許さない。
「昔、情けない自分に嫌気がさして軽はずみに綾里に言った事があるんだ 『死にたい』って。
そしたら綾里は泣きながら怒ったよ、 『残された人間はどうなるんだって』オレがいなくなったら嫌だって子供みたいに泣きじゃくる綾里を見て思ったんだ。
オレの命はオレだけの命じゃなかったんだって」
だからあの日、誓った。
どんなに情けない自分でも 大切な子を泣かせることだけはしないと。
「親友になれるかもって思ってた奴に死なれたら、オレだって悲しい!!それに昨日、喜んでくれるかなって、楽しそうに山本のお菓子を準備してた綾里の気持ちはどうなるんだよ・・・・・・ッ」
「ツナ……」
綱吉の目には涙が滲んでいる。
彼の必死な言葉に山本の心は揺らいだ。