第3章 標的3 野球少年
クラスメイトの言葉を聞いた瞬間、まるで鈍器で殴られたような衝撃が走った。
だって、昨日……
『お~し 今日は居残ってガンガン練習すっぞーっ。
いのり、明日 菓子楽しみにしてんな!』
『うん、任せて!』
そう言って笑いあった相手が、
山本君が死のうとしてる……?
ガランと静まりかえる教室。
既に綱吉以外のクラスメイトは屋上に向かった。
居ても立ってもいられなくなった綾里は、自分も駆けだそうとして席から立ち上がった時だった。
ザアアアアアアアアアアアアアア!!!
「っ!?」
不意に聞こえてくるラジオのようなノイズ。
頭を劈くような不協和音が綾里を襲った。
そして 声 が聞こえてくる。
『ヨ……ヒ……メ……』
闇の底で凍てついたようなとても冷たい声。
その言葉は途切れ途切れで意味を聞きとることは出来ない。
いや、 【コレ】 は聞いてはいけないモノだ。
「……ッ、こん、な……時に……!!」
「綾里!? どうしたのっ!?」
急に苦しそうに蹲ってしまった綾里に慌てる綱吉。
綾里は笑った。
しかしその顔は青褪めている。
「だいじょ……ぶ……早く……山本君……とこ……行って……」
「でも!!」
確かに山本のことが心配だ。
しかし、こんな辛そうな綾里を放っておけない。
「おねがい……っ!!」
「ッ、分かった!」
けれど必死に綱吉の腕を掴み、悲痛な声で訴える綾里に綱吉は教室を後にするしかなかった。
***
「はぁ、はぁ……っ」
走る、走る、走る。
元から足が速いわけではないけれど、全力で廊下を走り抜ける。
自分に何が出来るか分らないが、何とかしなくては。
この時の綱吉は山本と綾里のことで頭がいっぱいで。
だから気づかなかった。
「……クス……」
静かにとてもとても楽しそうに嗤う、少年とすれ違ったことに。