第12章 標的12 体育祭
『聞こえるか』
「お、赤ん坊じゃねぇか。どうした?」
『山本か、実はな―――――』
山本がリボーンの説明を聞いてすぐに立ち上がった。
彼は即行で獄寺の寝ているシーツを掴むと 容赦なく引っ張る。
獄寺が鈍い音を立てて床に転がった。
落とされた者は当然 痛みで起きる。
「~~ってぇな! 何しやがんだテメ―――」
頭を抱えながら獄寺が文句を言い終わるよりも早く山本が獄寺の胸倉を掴んだ。
「綾里のピンチだ! 早くツナ達の所に戻るぞ!」
「何っ綾里さんの!? 分かったすぐ行く!!」
獄寺は素早く起き上がると、大急ぎで山本の後に続いた。
2人並んで走りながら校庭に向かう途中、獄寺はふと、山本を横目で見やる。
獄寺は少し不服げに ぼそっと呟いた。
「……お前、ずっとあそこにいたのかよ」
「ん? そうだぜ。だって獄寺、全然 起きる気配がなかったしな!」
「なんで……」
「『棒倒し』 綾里、すっげえ楽しみにしてただろ! やっぱ、全員揃ってカッコイイとこ見せないとな!」
「!」
「オレが勝手にしたことだから、あんま気にすんな!」と笑う山本。
獄寺はその笑顔に彼の本質を垣間見た気がする。
普通 恋敵というものは ライバルを差し置いて自分を優位に立たせようとするものだ。
なのにどうしてこう並盛という所はお人よしが多く集まるのだろうか。
ファミリーに入る前 1人でいる時間が長かった獄寺にとってそれは信じられないことだったが、自分に向けられる優しさの数々が嫌な訳ではなかった。
初めの頃は綱吉と綾里以外 心を許すものかと、半分意固地になっていたが、最近はこの男のことも認めていいんじゃないかと獄寺は感じ始めている。
もちろん認めていると口にするのは何だか悔しいので、絶対に本人の前では言わないと誓っているが。
「…………サンキュ」
獄寺が物凄く小さな声でお礼を言ったが、山本にはちゃんと届いていた。
意地っ張りな少年が素直に礼を言ったことに山本は少し驚いたが、すぐにとても嬉しそうに笑う。
「ハハッ、どういたしましてなのな!」
―――少年達の友情は少しずつだが確実に深まっているようだ。