第12章 標的12 体育祭
[女子200m走]
待ちに待った体育祭 当日。
次々に行われていく種目、鳴り止まぬ声援。
熱き戦いを繰り広げる生徒達に天も味方をしたのか、空は文句のつけようがない青空だ。
今現在 行われている種目は―――女子200m走。
(ワクワクするけど、それと同じくらいドキドキする……!)
体育座りをしながら自分の出番を待っている綾里が ぎゅっと目を閉じ小さく縮こまった。
走ることは好きなのだが、こういう順番待ちはどうも苦手だ。
1人、また1人と仲間が走っていき、スタートラインに近づくにつれ 心臓の鼓動も早くなる。
綾里は緊張を紛らわそうと体操着のズボンからハチマキを取り出し、ほんの少し震える指先でハチマキに刺繍されている文字をそっとなぞった。
ハチマキの中央部分には『いのり綾里』という文字が刺繍されている。
これは今日の為に 京子とハルが作ってくれた お守りだ。
苗字と名前で それぞれ分担したのだろう、若干 文字のバランスが違ってしまったことを本人達は気にしていたが、綾里はぜんぜん気にならなかった。
聞けばこれには京子達だけでなく、綱吉達の『愛のパワー』が込められているらしい。(「ツナ達一生懸命 念じてたわよ。もちろん私もね」と、ビアンキが微笑みながら説明してくれた)
こんなに温かく気持ちのこもったお守りは そうそうないだろう。
綾里は素敵な仲間を持てたことに心から感謝した。
「綾里、行ってくるね」
前に座っていた クラスメイトであり、部活仲間である少女が声をかけてきた。
彼女も綾里と同じように少し緊張した様子だったが、
綾里が力強く「いってらっしゃい!」と言うと、「ありがとう。綾里も頑張って!」と、笑顔を返してくれた。