第12章 標的12 体育祭
獄寺の呟きを聞き取った山本は、本人に気づかれるよう そっと目を閉じた後、何も聞かなかったように笑った。
それが山本なりの優しさなのだろう。
けれど、残念ながら了平には獄寺の言葉は届かなかったようで。
「む。よく聞き取れなかったぞ。あれは魔王の……何だ?」
「なんでもねぇよ!」
獄寺が自分の心に残る若干の気まずさを誤魔化すように、片手でズボンからタバコを取り出し、それを口にした瞬間。
くわっ、と了平の目が見開かれた。
「消さんかぁ!!」
了平がもの凄い勢いでタバコを叩き落した。
「てめー……なにしやがる」と獄寺は怒るが、了平はそのままの勢いで怒鳴りつける。
「お前のケムリが綾里の健康を損なう恐れがある!!」
「ハッ、よく見ろよ! これは電子タバコだ!!オレだって 綾里さんに迷惑がかからないように、いろいろとだな……!」
まさか獄寺がそんなことをしているとは。
獄寺の努力を知った綾里は感心したように目を輝かせた。
「確か電子タバコって、普通のより高いんですよね?
ただでさえ、タバコは値上がりしたのに……。よし!私のお小遣いで隼人に電子タバコ、プレゼントしなくちゃ……!」
「いや待て、綾里。そもそも未成年の喫煙は駄目だぞ、買うのも駄目だからな」
「今度 買う予定だったケーキの材料がまんしよう!」と、電子タバコを購入する気満々な綾里にリボーンの冷静なツッコミが入る。
「ハハハ 皆 面白ぇーなー。オレこのメンツ好きだわ」
のほほんと山本が笑う。
ここにいるメンバーは皆、綾里を狙う恋敵同士なのだが 大騒ぎこそなるものの、昼ドラでありがちなドロドロとした空気になることはない。
恋愛は楽しいことばかりじゃなく時に切なく辛いこともあるのだろうが、それでも綱吉達の関係が崩れないのは 綾里の人柄が関係していると言っても過言ではない筈だ。
いつだってそう、この子の周りには 笑顔 が集まる。