第13章 夏の思い出
「ん、美味しい!」
「よかったぁ」
「紫苑はいいお嫁サンになれますね」
「もう!本気にしますよ!」
「本気って言ったらどうします?」
「からかわないでください!」
また赤くなる顔をまぎらわそうと、紫苑も頂きますと箸を取った
片付けを一緒にやり終えると、さすがに自分の身なりが気になってきた
お風呂にも入らなきゃ
「じゃあボクちょっと帰って着替えてきていい?」
「あ、はい、私も着替えておきます」
お風呂から上がり、浴衣を眺める
やっと着れる日がきた
これでも一応貴族の出
一通りのことは教え込まれたから、浴衣くらいなら1人で着れる
髪の毛はどうしようかな…
鏡を見ながらあぁでもない、こうでもないと悩んでいるうちに時間がどんどん過ぎていく
「紫苑ー入りますよ」
「あ、喜助…さん」
襖を開けたところにスラッとした高身長…柔らかく笑う甘いマスク、深い群青色の浴衣…
数秒息が止まった
「かっこいい……」
「紫苑も凄く似合ってますよ」
「なんか、お祭り行くの嫌になってきちゃいました…」
「え」
喜助は思ってもいなかった返事に言葉を失う…
何かしてしまっただろうか…
「こんな素敵な喜助さん、他の人に見せたくない…」
「紫苑…」
なんて可愛いんだ…
「ボクも一緒…こんな可愛い紫苑を誰にも見せたくない…」
ギュと抱き締めると、小さく抱き締め返してくる
「でもせっかく浴衣買ったから行こう?ね」
「…はい、あでもまだ髪が……」
紫苑はまだ髪型を決めあぐねていた
すぐやりますからと、鏡に向かう
喜助を待たせているのと、決まらないのとで焦りがでてくる
「ねぇ、ボクがやってもいい?」
「え?」
「これでもね、器用なんスよ割りと」
そう言って紫苑の後ろに立つと、慣れた手つきで髪をまとめていく
最後に髪飾りをつけて
「はい、できた」
「すごーい!かわいい!喜助さんありがとう!」
「……いえ」
「喜助さん?」
「なんでもないっスっ、いきましょ」
髪の毛をセットしただけなのに、こんなにも浴衣姿がグッとくるなんて…
3割増しどころじゃない
ボクもまだまだっスね…