第12章 会いたいです
袖を掴む力を強くして、紫苑は泣かないながらも凄く悲しそうな、顔をしていた
「…無理しないって、約束できますか?」
「…はい!」
紫苑の顔がパァッと明るくなって、途端に笑顔になった
まいったな…ボクは紫苑に厳しくできないかもしれない
…─
「あ、ちょっと待って、ひよ里さん。実は…」
「?」
喜助の後を追おうと走り出した時、腕を引かれた
この緊急事態に、一体なんやねん…
「実は紫苑、もう意識が戻っていて、しばらく安静にしてれば帰れるみたいなんです」
「そうなんか…それは良かった。せやけどさっき、琴乃深刻そうな顔してたやんけ」
そういえば自分に話しかけて来たときは、割りと声のトーンが普通だったような…
「あんな顔する浦原隊長見たらちょっといじめたくなっちゃって…あは」
「いじめたくなったって…あんなァ…」
髪をくしゃっとかきながら、2人は並んで歩きだした
「ほら、数日ぶりの再会だからちょっと演出してあげようかなって」
「お前、要らんとこに気遣うんやな…」
血相変えて出ていった喜助が少しだけ気の毒に感じた
「でも倒れたのは事実なんやろ?貧血って前からなん?」
「はい…。時々あるんです。でもあんまり騒ぎ立てると、紫苑気にしちゃうから…」
「それでウチのこと止めたんか」
琴乃は少し苦しそうな笑顔で返事をした
…─
「西園寺さん、もうお帰り頂いて大丈夫ですよ」
「ご迷惑おかけしました」
外はすっかり日が落ちていた
ひんやりとした夜の空気が心地よい
「荷物、隊舎っスよね?取りに行く?」
「そうですね、明日非番ですし」
喜助さんは私の体調を気づかってか、ゆっくりと歩いてくれた
足元が暗く、目を凝らしながらところどころにある灯りを頼りに進む
「紫苑」
呼ばれて顔をあげると左手を差し出す喜助さん
「転ばないように、ね」
ふっと笑う優しい笑顔
胸が動き出す
どうしてこの人はこんなに素敵でスマートで紳士なのか…
手を差し出すと、くっと持ってかれるように繋がれる