第1章 この子どこかで…
琴乃は紫苑のベッドの横に座り、紫苑を見つめていた
「早く起きてよ…」
何度言ったかわからないその言葉を言ったあと、小さくため息をつく
「まだ起きないんスね…」
思いがけない声に驚いて琴乃は振り返る
「浦原隊長!」
浦原隊長と会うのはあの日以来だった
お礼を言わなければと思ってはいたが、相手は隊長
十二番隊ということはわかっていても、こちらは霊術院の一生徒
なかなか会いにも行けずにいた
「琴乃サン…でしたっけ?具合はどうですか?」
「あ、はい。私はもう…」
私に声をかけたあと、浦原隊長は紫苑の顔を見るため私の隣にきた
「あの!あの時は助けていただいてありがとうございました!」
「お礼なんていいっスよ」
でも…と下げたままの琴乃の頭を、喜助は優しく撫でた
「差し支えなければ、でいいんスけど…」
琴乃は頭に疑問符を浮かべた
「あの人とはどんな関係だったんスか?」
あの人…とは、工藤のことだろう
この人は命を助けてくれた恩人
聞く権利があるよね
「工藤は西園寺家の使用人です。私と工藤は、使用人仲間だったんです」
「琴乃サン、使用人だったんスか」
琴乃は頷く
「あの焼けた屋敷は、西園寺家?」
「はい。紫苑はそこの1人娘で、私たち3人は小さい頃から一緒に居たこともあって、凄く…仲良くて…っ」
琴乃が涙を我慢しているのに気づいた喜助は、そっと優しく頭を撫でた
「我慢しなくていいんスよ」
糸が切れたように琴乃の目から溢れてくる涙
「こんなことに…なるなんて…っ……なんで泣いてんの私っ…辛いのは、苦しいのは紫苑なのにっ!」
「琴乃サンは優しいんスね…」
涙が止まらない琴乃を、子供をあやすように優しい声をかける
「泣かせるつもりじゃなかったんスけど…ごめんね」
琴乃は首を横に振る
落ち着きを取り戻した琴乃は喜助に別れを告げ、霊術院の寮の自室へ帰っていった
琴乃が居なくなった病室
喜助はしばらく紫苑を見つめていた