第1章 この子どこかで…
「僕の心が…弱いから…虚に…っ」
「工藤…あなた…」
「あの、ありがとう…ございます」
その言葉は喜助に向けて言ったものだった
「物心ついた、時から…コイツが…時々僕を支配して…」
握った拳が地面にめり込む
悔しかった
苦しかった
誰にも、言えなかった…
「楽に、なりましたか…?」
喜助の言葉に、工藤は少しだけ目を開いて
「はい…」
安心したように、ほっとしたように、また目を細めた
そして工藤は紫苑に視線を戻した
「紫苑さま…」
工藤は残りの力を使い、腕を使い紫苑たちのほうへ近づいてきた
紫苑に触れそうな距離まで来たとき、工藤の体が足元から粉のようになり消え始めた
「僕はあなたを……お慕いしておりました」
泣きながら笑いながら、最後の言葉を残した工藤の手が紫苑に届くことはなかった‥
「工藤っ!工藤っ!」
「工藤…さんっ!」
工藤の体は全て粉になり、風に舞って消えていった
琴乃はしばらくそれを見つめていた
紫苑は苦しそうに大きく息をしている
「あ…の…」
「喋らないほうがいい。大丈夫。もう間もなく四番隊がきます」
遠くの方からこちらへ向かってくる何人かの足音が聞こえる
「浦原隊長!」
「すぐにこの子の治療をお願いします」
「わかりました!」
良かった…
もう大丈夫…だよね…
手際よく治療をしている彼らを見た琴乃は、安心してその場に眠るように倒れこんでしまった
「浦原隊長!そちらの子は大丈夫でしょうか?」
「外傷はないし問題ないでしょう。恐らく緊張が解けて安心したんでしょう」
紫苑の応急処置が終わったあと、2人は四番隊舎に運ばれ、紫苑は集中治療が行われた
…─
あれから10日
紫苑はまだ目を覚まさない
特に体を傷つけられていなかった琴乃は、丸1日程で目が覚め、経過観察を終え無事に退院することができた
霊術院にも復学し、終わる度に毎日紫苑の様子を見に来ている
四番隊のおかげで、紫苑の体の傷は綺麗に治っていた