第62章 新婚の在り方
1年たっても"妻"と呼ばれて赤面して、まだまだ新婚ホヤホヤじゃの…
こっそり聞き耳をたてていた夜一は、満足気に姿を消した
「心配してるんスよ…」
「ごめんなさい…」
あからさまにシュンと肩を落とす紫苑
あぁ、こんな表情をさせたかったわけじゃないのに
胸が痛む
「向こうはまだ、落ち着かないっスか?」
「春まではこんな感じだろうって、阿近が言ってた」
「春って…それまで今の感じで続けるつもりっスか?」
「う、ん。仕方ないよね…」
仕方ない?そんな問題じゃない
夫として、紫苑の上司に文句のひとつでもつけたいところだ
けど、それは自分の極身勝手なワガママで、紫苑も護廷にいる以上やはり、仕方ないことなのだろうか
「無理しちゃダメっスよ…ボク、心配で居ても立っても居られませんから」
「ありがとう。あ、ねぇ琴乃は?最近良く出掛けているみたいだけど…」
平子隊長のところと行ったり来たりは前からだけど、それとは別にどこかに行ってるらしい
おかげで最近会っていない気がする
「さぁ、ボクもそこまでは」
「そっか。ごちそうさま。お風呂入ってくるね」
「はぁい」
足りない
紫苑が足りない
新婚とはもっとこう、ホヤホヤでふわふわでアハハでウフフな奴じゃないんスか?
「やっぱり専業主婦になれば良いのに…」
洗濯して、掃除して、ごはんつくって、お風呂ためて、ボクにお疲れ様って言ってくれたら、それだけで幸せなのに
…昔、ボクが隊に居た頃も、忙しくしていたボクを待っていた紫苑はこんな気持ちだったんだろうか
やっぱり手伝いに行こうか…
…─
「どないやった?」
一番隊舎の前で琴乃を待っていた平子は、待ってましたとばかりに出てきた琴乃に声をかけた
「真子…私…」
目をうるっとさせる琴乃に平子の胸はざわついた
「まさか…」
駄目だったんやろか…
クソ!
あのジィさん…いや、四十六室か…シバいたろか
そのとき琴乃が突き出した手の、親指がピンと上を向いた
「おっけーでしたぁ!」
「はァ?」
「あれ、喜んでくれないの?」
「お前そのしょーもない演技辞めろや。心臓に悪いやんけ…」