第62章 新婚の在り方
浦原商店─
「少し遅くなります…って、充分遅いんスけど!」
「うるさいぞ喜助」
「夜一サン!これが新婚の在り方っスか?!むしろ夫より帰りが遅いってどういうことっスか?」
「やかましいのぅ。お主の職場はここじゃろ。大の大人がみっともない」
紫苑の帰りを待って、夜飯にも手をつけずにいたらしいが、ついに諦めたようでグダグダと愚痴を言いながらおかずをつつきだした
ジン太と雨はさすがに寝たようだ
「紫苑も頑張っておるのじゃろ。応援してやらんか」
「寂しくて死んじゃいそうっス。ウサギの気持ちが分かります」
「その話しは嘘らしいぞ」
嘘か本当か、そんなことはどうでもいいと喜助は時計を見ては何度もため息をつく
「そんなに寂しいならお主も手伝いに行けば良いじゃろ?技局にとったらお主が来れば百人力じゃろ」
「アタシもそう言ったんスけどね、涅サンに即却下されました」
「それは気の毒じゃの」
「どうせ紫苑に見惚れて仕事にならないのが目に見えてるヨ。って…」
「分からんでもない」
「仕事は仕事っスよ~。ちゃんとやるのに…」
すると自室へ入ろうとしていた鉄裁が、居間の襖を開けた
「店長、帰られたようですぞ」
「ほんとっスか!」
さっきまでのグダリは何処へやら、喜助はスッと立ち上がり紫苑が来るであろう廊下に身体を出す
「紫苑~待ってたっスよぉ~」
「遅くなってごめんなさい!」
なんて申し訳なさそうに、泣きそうな顔で言われたら責められるわけないじゃないスか
「ご飯食べますよね?」
「うーん、今日は果物の気分」
「最近よく果物食べてますよね?」
「さっぱりして食べやすいんだよ」
紫苑は台所に向かい、グレープフルーツとオレンジを手に取り、皮を剥きはじめた
「紫苑、早く寝るのじゃぞ」
「ありがとう、夜一さん。おやすみなさい」
夜一は気を利かせその場を離れた
「紫苑、最近ちょっと頑張りすぎじゃないっスか。ボクの妻ってこと忘れてません?」
「つ、妻…」