第61章 アナタが笑顔なら 後編
少し目を細めて、少し口角を上げて、少し手をぎゅっと握ってくれた
「…うん」
少し俯いて、少し目尻を下げて、少し息を吐いた紫苑
安心しきってないのは分かる
あの日から紫苑はまた笑わなくなった
微笑んだりはあるけど、心からの笑顔ではないというか
どうしたらまたあの笑顔を見せてくれる?
「つきますよ」
一瞬視界が眩しくなって、目を開けると商店の地下に出た
上に上がって喜助さんは部屋に布団をひいてくれた
そして、何か温かい飲み物を作ってきてくれると、1階の台所に向かった
私は横になる前にお手洗いに向かった
1階に降りると近くの部屋から話し声が聞こえる
それを気にしながらもお手洗いをすませた私は、話し声のする部屋に近づいた
ここ、琴乃が使っている部屋…
平子隊長だ
『でもさぁ、その状況だったら浦原さんがキスしちゃうのも仕方なくない?』
一瞬でドキンと胸が鳴った
この2人は喜助さんの当時の状況を知っているんだろうか
『せやけどなぁ…』
『じゃあ真子はさ、私がいなかった時に、酔っぱらって、私に声も姿も仕草も似てる人に迫られても、何もしないって言える?』
『う…』
『その人が私のフリして迫ってきたら?』
私が居ない時に、
酔って…
私のフリしたあの人に迫られて…?
『それは…アレ…アレや…』
しどろもどろになる平子を見ながら、面白そうににやけて少しだけ意地悪をした
『アレじゃ分かんないよ~』
『しゃァから…』
にやけた顔をやめて、寝転んで天井を見上げた
『私だったらキスしちゃうかもしれない…』
『はァ!?』
『私だったら…真子に会いたくて会いたくて…仕方ないもん…』
『琴乃…』
お酒で潰れて、喜助さんに似せた人が、喜助さんのフリをして、会いたかった…なんて言ってきたら…
離れている100年の間に、そんな人が現れたら…
「求めてしまうかもしれない…」
喜助さんも、きっと…
「紫苑!部屋で休んでなきゃダメっスよ…もぅ」
「喜助さん…」
手に2つの湯飲みを持って、喜助はこんなところで何をしているんだと、少し顔をしかめた
「紫苑帰ってきたの?」
襖が開いて、琴乃が顔を出す