第61章 アナタが笑顔なら 後編
「…阿近の気持ちには答えられないのに、傍に居てほしいって、私を支えてほしいって…思うの…」
逆の立場だったら、どんな気持ちになるだろう
喜助さんに、大切な存在が居たら、どんな気持ちになるだろう
「…だけど、いずれ阿近を愛する人が現れて、阿近も…その人を愛したとしたら…」
「愛したとしたら?」
「私から離れていくのが怖い…支えが無くなってしまうのが怖い…きっと、その時私は…邪魔になるから…」
喜助さんの薬は本当に良く効く
お腹の痛みはもう大分、治まったのに…胸が苦しいよ
「私は…やっぱり…誰かに頼らないと…ダメなの…かな」
その時、ドアが開く音がした
ドアを開けた人物を見て喜助は怪訝な顔をした
「邪魔なんて…思わねぇよ…」
「…阿近」
阿近には、絶対に言わないつもりだったのに
「どんなに時が経ったって、紫苑は俺の大切な存在だから。紫苑が支えてほしいって言うんなら、俺はいくらでも傍に居てやるよ」
ピリピリと皮膚が痛い
きっと浦原さんが殺気を送ってるんだろう
「だから、安心していい」
「あり…がと…」
紫苑だけに見せる優しい笑顔
喜助からの更に強くなった殺気を感じて、阿近はじゃぁな、と再び部屋を出ていった
少しの沈黙を破ったのは喜助
「帰りましょうか」
「え…あ、うん」
怒っちゃったのかな…
怒って当然だ
他の女の子が、喜助さんに大切だから、傍に居てあげる…なんて言ってたら、私きっと…おかしくなっちゃいそうだもん
それこそ、嫉妬に狂ってあの人と同じことをするかもしれない
そしてきっと私もあそこに…
「考え事してると転びますよ」
「ふぇっ…」
喜助さんは背中にのせてくれようとしたのを、気まずくて歩けると断った
だけど断界はゴツゴツしていて歩きづらいことを忘れていた
いつもなら、自分から手を繋ぎにいけるのに喜助さんの少し後ろを歩きながら、背中を見つめることしかできなかった
「手出して」
「…うん」
私の心が読めるのか、喜助さんに差し出された手を握った
「別に怒ってないっスよ」
「…本当に?」
「紫苑が阿近サンを大切だと思う気持ちを、ボクは否定しないっスよ」