第61章 アナタが笑顔なら 後編
紫苑と砕蜂サンは特別仲が良いというわけではないから、その名前が出てきたことに少し驚いた
「頼んできたの」
「何を?」
「麻美さんが収監される前に、リョウ先輩と会わせて欲しいって」
紫苑がそこまで行動していることに驚いた
「渋々だったけどね、聞いてくれた」
話がこれで終わりだったら良いのに、きっとそんなことはない
「あとね」
胸がざわっとする
気持ち悪い
「これ言ったら、喜助さんを嫌な気持ちにさせちゃうかもしれないの…」
だから、聞くか聞かないか決めて欲しい
そんな声が、紫苑から聞
こえてきそうな気がした
怖くないと言ったら嘘になる
何?どうした?
結婚が嫌になった?
「大丈夫。何でも言って」
と言った手前、心臓の脈は大きくなって
まさか、阿近サンのことが好きとか…?
「阿近のことなんだけど…」
「ぅえっ…えっ?」
間抜けな声を出してしまった
やっぱり聞くのやめようかな…
さっきから背中の汗がすごい
「今日、局員の女の子に聞かれたの。阿近さんが好きなんですか?阿近さんの優しさを利用してるんですかって…」
「うん…」
ボクは覚悟を決めて、話を聞くことにした
「その子は、阿近のことが好きで…」
苦笑いも程々に、紫苑はボクを見つめた
「私…」
「うん…」
あー嫌だ
一体何を言われるんだ…
ボクに、受け止め切れるだろうか
拒絶されるのは、もうごめんっス
「阿近のことは…大切…というか…」
「ゆっくりでいいよ」
「もちろん私のほとんどを支えてくれてるのは…喜助さんと琴乃…なんだけど、阿近も…私の支えの一部で…」
段々と文章が途切れはじめている
「阿近の気持ちに…は…答えられない…のに…」
息継ぎの回数が多い
予想以上に思い詰めてるみたいだ
「なのに…ねっ…私…」
「紫苑、一旦深呼吸しましょう」
そこで漸く、自分が色々なものを絞りだして話していたことを理解した
「…ありがとう。少し、落ち着いた」
喜助は微笑んで、続けられる?と優しく聞いた
紫苑は小さく頷くと、再び話し始めた