第61章 アナタが笑顔なら 後編
「薬作ってくるんで、アタシの代わりに紫苑見といてもらえません?」
「随分信用されてるんだな。男とは2人きりにしないんじゃなかったのか」
今更言われたって、聞いてやれねぇけどな
「信用してますよ。阿近サンは、紫苑の嫌がることしないでしょう?」
「そりゃあ…」
「てことで、よろしくお願いしますね」
あんなにはっきり信用してる、なんて言われたら背筋が伸びる
ある種の牽制か
黒崎、お前の気持ち痛い程分かるよ
部屋に戻った阿近は、ソファで横になっている紫苑と目が合った
「浦原さんが薬作ってる間、紫苑見ておけって」
「そっか。ありがと」
「相変わらず過保護だな、あの人」
紫苑は返事の代わりに微笑んだ
その微笑みすら眩しくて
それが自分のものだったらって…
諦めるのはまだ、時間かかりそうだ
…─
「紫苑、薬できましたよ」
それまでソファに横になっていた紫苑は、重そうな体をゆっくりと起き上がらせた
「じゃあ俺は行くな」
「うん、一緒に居てくれてありがと」
「お疲れっス」
ヒラヒラと背中を向けながら、手を振った
扉が閉まると喜助は紫苑に薬を手渡した
「ありがと」
喜助さんの作る薬は、いつも良く効く
それを飲んだだけで、不思議と心も落ち着いてくる
「何か、ありました?」
「へ?」
紫苑の手を優しく握って、しゃがみこむ喜助
目線を低くして優しく紫苑を見上げる
「なん…で?」
「んーなんとなく。朝より元気ないなぁと思って。お腹痛い時の感じとは、また違うような気がしたから」
ほんと、なんでも分かっちゃうんだから…
たまにちょっと困る
「ボクには言いづらいこと?」
怒ってる訳じゃないのは分かる
私が言いづらいと言えば、きっと喜助さんはそれ以上聞いてこないだろう
「大丈夫。無理しなくて良いよ」
私の瞼が下がったのを見て、喜助さんは微笑んで立ち上がった
「荷物は?これだけ?」
そろそろ帰ろうか、という雰囲気を出して紫苑の荷物を確認する
「砕蜂さんにね…」
「え?」